深山故や色さへ冴ゆるよとくさむらのすみれの花をいとほしみしき
やはらかに明暗をかする奈良坂の大路(ぢ)の眞(まひ)日に人影もなかりき
はろかなる丘のかなたにひらけつる木津の河原をゆかしみ問ひぬ
たえがたくかなしき日々のことは云はずゆく深山路にかげろふもゆる
うら/\に日ざしもたけてわがゆけばおほらかなるもあめつちのはる
那富山若葉の奥に人知れず鎮もりゐます皇子(みこ)の塚もありき
散り残る櫻もありてトンネルの山路(やまぢ)の奥は美しかりき
眞日髙み翳あざやかに道遠く手をとりてゆけば足らはぬことなく