せまりくる跫音(あのと)すべてにおびえつゝいつの日よりの崩壊のいろ
すべもなく背理の語さへ云はしむる命の冷えを神よ癒えしめ
やみがたく崩るゝものよわが希ふ終焉(いまは)をせめて華やかなれと
泣き喚き衣ひき裂くもやみがたきこの崩壊を人もあはれめ
わが肩に重くまつはる過去のかげ追へよ/\と思へど果さぬ
花咲かず生くるかなしさを泣きてなきて泣きやみし時に吾よ狂ひはせぬか
肉体にまで彫りこまれくるいのちのかなしさよ星のごとくにもだしつゝ夜を
いとせめて健やかなれと思ふ程にわがのぞみ事衰へにけり
胸にくすぶるもだへありて吾の叩き彈く悲愴ソナタは母まで届け
はゝを思ひこゝろ痛むにまかせゆく道にしだれて花もそよがぬ
子のをらぬ家客間の箱ピアノは今日もひっそりはゝにまもられ