なりはひ

白墨にまみれたる手を洗ひつゝまた忽ちに汚ごすひと日よ
うしろかげをあざ笑はるゝ心地して急ぎ閉ぢたる教室のドア
「解るの」と問へどうなづかぬ子等の前にくづれんとする身は支へつゝ
いさゝかの創意加へつゝ諳じすゝむ須磨の巻かもはる浅くして
わが語る光(ひかる)の君のおもかげは子等に泛(うか)ぶと圖られねども
教室の窓に明るき遠峯の雪の青さよ空か映れる
授業終へて帰り来し教務室の机の上に母の手紙の日に待ちゐぬ