髙文・羈旅

個の歎き云はざらむとす秋の日の道にこぼるゝ白萩のはな    歌と随筆二四・六
東大の銀杏の並樹青葉して吾らの受検は楽しかりに
振鈴待つ銀杏並樹の人群にわがさひはひを知る人無
川原のなでしこの花のやさしさを心に沁めて吾は旅ゆく
夫とゆく陸羽街道はるけくて板谷の山に雲は光れる
きよ澄みて門を流るゝせゝらぎに旅の疲れを癒やさむとする
うす青き花の型ある夏服の母の姿や清く若しも
あたたかく吾らを迎へ若き母は門に笑みつゝ待ちたまひたり
月の出も今宵はおそきほのぐらさ母のみ上の忘れかねつも
宵の灯に疲れて一人うたゝねをなり給ふらむ母の恋ひしも