胎動

音もなく息づきをらむ童身をみごもるに貧しき母なり吾は    歌と随筆二四・六
胎内の吾児よ許せな母は又すべなき事を歎かむとせん
父と母のたつき貧しきあけくれにも吾児は静けく育ちゐるらし
すべもなく涙せし朝の厨べにひそかに覚えて胎動あはれ    歌と随筆二四・六
真実を求めて生くる父母の道を助けよ疾く生れ来て
㐂びと嘆きといひて照りかげる思ひは捨つべし秋も深むに
いつの日に湖のごと静やかに夜を待つ心持つほかあらむ
一人なる夫のさげすみきびしくて厨べに泣くかなしき家妻
あや多き明日を期しける少(をと)めの日のわが夢やげに褪せにけるかも
せめて安けき一日を明日に期すのみとわが望み衰へにけり