夢の日の思ひの種よ夏の夜に月影に書きし君が御名かや
月影に君の記せしカード抱き夢覺めし夜の心もとなく
そぼ降れる氷雨の中に心入りて取残されし胸を抱けり
襟巻きに顔を埋めて辿り行く夜の田圃の霜がれの風
たゝけども叩けどもなほこのキイは白く冷たく音力なし
オリオンの永久に変らじと変らむとそにゆかりなき世の心とは知る
ひそけさはいつに変らぬ山の野に菫匂ひて春を残せり
いとけなく我を慕へる友人を如何で叛けむ愛は無けれど
辿りつゝ霧のさ中に潛み入りぬたゞ鳥が音の沈黙に冴ゆ
夏に入りしものうき風にけぶる雨松の梢を濡らしつゝ行く
煙り行く雨添ふ風に擦るゝ見ゆ松風立ちて鳥のきは立つ