夕焼の上れる西の空高く飛び交ふ鳥の影のさやけさ
とぢの木の黄さす緑の実の揺れて夏の夕の風立ちにけり
日の射さぬ今日のひとひの物憂くて事足ることもなくて過しぬ
古里を遠く離れて旅にあれば荒れにぞ荒れし庭もなつか志
故里の田辺はひそやけく霧迷ひ闇に侵され時雨つゝ暮る
人去りてひそやけき野に夕立の露雫くする秋草の風
見逃さじと追ひにし山の影失せて古里遠く離れ耒し汽車
狂ほ志きまでにこの世を呪ふとも想ふ吾が身は死なれざりけり
深く遠き澄む夕暮の大空を仰ぎて一日の夢を追ひ見ぬ
坂を行く跫音遠く聞え居て夜半のしゞまの遙かなるかも
歸り耒ぬ父君待ちて笛が音を侘びしともなくさびて聞き居ぬ