★ 帰って耒ない想ひ出

君影と青葉の径の想ひ出が呻きをかもす日頃なるかな
忘れしや去年に賜ひしかのちぎり知らずや野路に月と待つ身を
ふら/\と心もあらずうるはしきものを集むる獨りなるかな
老ひぼれし女みなの歩む跫音をまねて近づく夜のみぞれかな
寒々と血潮の音を聞く夜なり霽れしみぞれの滴く数へつ
恋醒めの冷たき風に身も心も砕けて果つる心地なるかな
紅の夕陽彩るラマ塔を仰ぎつゝゆく落人のあり
何人も風の如くに移り行き今この君を抱く吾かや
しみ/゛\と聞き見ることの余りにも風の如くに消ゆる悲しさ
宿命てふ烈しきものに捕はれて綱引かれ行く路の悲しさ
樂の音の餘韻の糸はほの/゛\と去にし夜の夢繰り戻すとや
罪犯す胸はかくもあらず心なき便りを抱く腕の悲しさ
今宵又こよなきちぎり賜ひける一夜の君の言を偲べり
由緒ある宮の石壘雪とけて由緒ある日に吾は辿れり
すぎし日に君の御為と櫻花散りし苑神祀るとや
今月てふ月の終りの御教へに諭されし人才を頼みき
兄妹名にかくれては恋を云ふ吾ら二人の罪深きかな