水ぬるく濁れる汝も在りし日は小石浮かせて清らかなりし
吾も又邪も何もなく靴脱ぎて水と遊びし若子にてありき
ことはりのみ言ひて逃れつ自分をも欺かむとする浅ましさかな
何もかも夢にてあれよこの胸のこの煩悩の流れ来しもと
いとしともかつ恋しとも想へども強き笞に我が心うつ
朝焼けの川に照り映ふさゞなみの幸なるごとくゆるめきて見ゆ
幸ひなるひとひなれかし朝焼けのこの輝きよひとひ絶やすな
絶え間なく砕けて消ゆるうたかたよ誰が爲に語る宿命なるかや
在りし日に姉と遊びし川なりき清らかなりしと今はた思ひぬ
うつら/\夢路にさまよひ寝ねもせずたゞ虚ろなる心抱けり
愛すともはた君言ひぬ我は今學びの身なりな宣ひそ
お母様御やすみなさい星空を仰ぎつ雨戸閉ぢるさみしさ
グツドナイト当なき侘びしこの言葉アドレスのなき文にも似たる
歌声は夜半のしゞまに渡り行き流れの音と和して語らふ
はた/\とひとへの袖に夜半の風波うち砕けてもの想はする
夢さめる日のさみしさよばらの香の漂ふこゝちいまだすれども
ほゝゑみとはた語らひと現つのごと今また生くる朝霞かも
ふるさとを偲びて夜もそこ/\にやすまぬことぞ幾日續きし
何ごとの涙なるかや浅ましき心を知りし涙にてあり
かくのごとかくして歌ふ吾が心吾に覚れずさみしく思ふ
明日のなき乙女の夢の迷ひなれかくして立つもかくして歌ふも
家思ふ悲しみ故や君故や吾にだに分ずさみしと想ふ
うつら/\遠き夢路にさまよへる晝の下宿の濡れ縁の風
小流水の水音高く響く夜は遠き想ひの迫り来るごと
余りにも淡し乙女の夢なりき白の木蓮風に散りつゝ
幾度か月の夢路に踏み迷ひ目覺めて聞きぬせゝらぎの音
彼の夕べ音なく散りし木蓮の白き葩(はな)今も忘れず
彼の町の北の丘辺の草原のかの月草よ今年も咲けや
心もなく踏み迷ひつゝ辿り来し白眞き(ママ)月の影を追ひつゝ
安らかに想ふ月日を重ねたし目覺めて夢の跡を偲びつ
迷ひては勉むるも得じかの小川かのせゝらぎの月に曳かれつ
苔むせる青き底石その上に流るゝ水の濁るさみしさ
胡桃の木月影落す夜半なりき去り行く姉と水に語りし
その昔の黒土匂ふ影もなし廃れし家の跡の石垣
習ひのごと日夜佇む石垣のその上ありし土を偲ぶる
水々と黒土匂ふ草原の月に語りし上を偲びつ
君まさぬ夜のせゝらぎはその音も悩むるごとく胸に迫り来
いつになく清らに咽むこの流れ過ぎにし夜の月を忘れず
さら/\と語らふごとく水の音の耳に迫りつ何をかかこつ