★ 悲しき生活

去にしひとを涙の夢に描きつゝみたり数へて今日も黄昏れぬ
秋の月青き光に巡りつゝ虫のかこつを如何に聞くらむ
虫と共に過去に泣きつる心なり覺めし夢だに忘れやらでか
いたづきて沈む面わのかの窓にたそがれの灯はうるみ寄るなり
病める身の淡き憂も思ひやるかの灯びの水になす影
星の影悲しき数にうすれつゝ煩ふひとの想ひ囁やく
悲しみは胸に埋もれて寒々と地に滅入り行く吾身なりけり
か黒なる彼の灯びのその影を覺めにし夢の骸とは見ぬ
廃屋の大樹の梢仄見えて月の影より小夜嵐吹く
吾故や縁薄れしときはぎの廃屋に吹く風の侘びしさ
悲しみの色に更けたる秋の月醒めにし夢の幸なる問へとや
忘られし花束のごと去にしひとを萎えし血潮の音に招ぶなり
文机に書の枝折はひきつれど古き想ひをなほも抱けり
寒々と月を吹くなりこの風の情なき名残り胸に秘めよや
さやかなる六日月なり傾けば洿りし夢の影もひそみぬ