潮鳴り


00036
陽の昃れば忽ちデュフィの海となりスカートをふくらませてわれも佇つ
ヒノカゲレバ タチマチデュフィノ ウミトナリ スカートヲフクラマ セテワレモタツ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956.4) p.14


00037
足もとの砂冷えて來て昏るる海わが畏れゐし褐色となる
アシモトノ スナヒエテキテ クルルウミ ワガオソレヰシ カッショクトナル

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956.4) p.14
【初出】 『短歌』 1956.7 まぼろしの椅子・その後 (22)


00038
今は誰にも見することなきわが素顏霧笛は鳴れり夜の海原に
イマハタレニモ ミスルコトナキ ワガスガオ ムテキハナレリ ヨノウナバラニ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956.4) p.15
【初出】 『形成』 1955.11 秋深む (2)


00039
月の夜の潮鳴り低し出でゆかば身近にあらむ死と思ふ時の間
ツキノヨノ シオナリヒクシ イデユカバ ミジカニアラムシト オモフトキノマ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956.4) p.15
【初出】 『短歌』 1956.7 まぼろしの椅子・その後 (24)


00040
身代りに何を沈めて戻るべきいどむ如く來る夜の満ち潮
ミガワリニ ナニヲシズメテ モドルベキ イドムゴトククル ヨルノミチシオ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956.4) p.15
【初出】 『形成』 1955.11 秋深む (3)


00041
今朝の夢の終末を呑める海の色を怖れてゐしがやがて眠りぬ
ケサノユメノ シュウマツヲノメル ウミノイロヲ オソレテヰシガ ヤガテネムリヌ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956.4) p.16


00042
覺めかけてまた夢見つつ幾たびか潮滿ち來てわが身をひたす
サメカケテ マタユメミツツ イクタビカ ウシホミチキテ ワガミヲヒタス

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956.4) p.16


00043
アルフレッドと心に呼びゐてさりげなく遠くかすめる島の名を問ふ
アルフレッドト ココロニヨビヰテ サリゲナク トオクカスメル シマノナヲトフ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956.4) p.16


00044
わが中の脆き一面を怖るるに近よりて不意に君は肩をたたく
ワガナカノ モロキイチメンヲ オソルルニ チカヨリテフイニ キミハカタヲタタク

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956.4) p.17
【初出】 『形成』 1955.11 秋深む (4)