秋深む


00045
亂されぬ理路を信じて生き得るや髪とかしつつ朝より疲る
ミダサレヌ リロヲシンジテ イキウルヤ カミトカシツツ アサヨリツカル

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956.4) p.18
【初出】 『形成』 1955.11 秋深む (5)


00046
不満の種をつねに探し來るごとき君語り終るを待ちつつ寂し
フマンノタネヲ ツネニサガシクル ゴトキキミ カタリオワルヲ マチツツサビシ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956.4) p.18
【初出】 『形成』 1955.11 秋深む (6)


00047
窓際の焜爐にひねもす湯はたぎる異動期過ぎて靜かになれる事務室
マドギワノ コンロニヒネモス ユハタギル イドウキスギテシズカニ ナレルジムシツ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956.4) p.19
【初出】 『形成』 1955.10 推移 (4)


00048
慢心してゐしかと寂し刷り上れるパンフレットの誤植數へゆきつつ
マンシンシテ ヰシカトサビシ スリアガレル パンフレットノゴショク カゾヘユキツツ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956.4) p.19
【初出】 『形成』 1955.10 推移 (5)


00049
われ次第にて明るくも暗くもなる職場と思ふ或る日は負ひめの如く
ワレシダイニテ アカルクモクラクモ ナルショクバト オモフアルヒハ オヒメノゴトク

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956.4) p.19
【初出】 『短歌』 1956.7 まぼろしの椅子・その後 (48)


00050
妹の届けくれし木犀匂ふ部屋假名習はむと墨をすりゆく
イモウトノ トドケクレシモクセイ ニオフヘヤ カナナラハムト スミヲスリユク

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956.4) p.20
【初出】 『形成』 1955.11 秋深む (1)


00051
物音もたてぬ一日と寂しめり木犀の花夜の卓にこぼるる
モノオトモ タテヌヒトヒト サビシメリ モクセイノハナヨノ タクニコボルル

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956.4) p.20


00052
ペパーミントも買ひたり來よと書く便り慰められたきはわれかも知れず
ペパーミントモ カヒタリコヨト カクタヨリ ナグサメラレタキハ ワレカモシレズ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956.4) p.20


00053
明日は來む友ら思ひつつ眠る前匂ふカルキにふきんを晒す
アスハコム トモラオモヒツツ ネムルマエ ニオフカルキニ フキンヲサラス

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956.4) p.21
【初出】 『形成』 1955.10 推移 (1)


00054
寂しさをうつされて歸る君と思ひ遠ざかりゆく足音を聽く
サビシサヲ ウツサレテカエル キミトオモヒ トオザカリユク アシオトヲキク

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956.4) p.21
【初出】 『形成』 1955.10 推移 (2)