賣子木の花


00071
理解さるるを故意に拒むと思はれむ應へ少く人と歩めり
リカイサルルヲ コイニコバムト オモハレム イラヘスクナク ヒトトアユメリ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.28
【初出】 『形成』 1955.8 短夜 (11)


00072
内側に踏み入るを避けて語らへばかたみに寂し君も獨り身
ウチガワニ フミイルヲサケテ カタラヘバ カタミニサビシ キミモヒトリミ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.28
【初出】 『形成』 1954.7 風塵 (6)


00073
散りしける賣子木の花掃く土の上わが呟きを聽く人もなし
チリシケル エゴノハナハク ツチノウエ ワガツブヤキヲ キクヒトモナシ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.29
【初出】 『形成』 1955.8 短夜 (7)


00074
鬱結のほぐるるを待つ如き夜々レースの小花編みためてゆく
ウッケツノ ホグルルヲマツ ゴトキヨヨ レースノコバナ アミタメテユク

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.29
【初出】 『形成』 1955.8 短夜 (8)


00075
まざまざとわれは書きたしみづからの傷嘗めて堪へ来しながき経緯を
マザマザト ワレハカキタシ ミヅカラノ キズナメテタヘコシ ナガキケイイヲ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.29
【初出】 『形成』 1955.8 短夜 (9)


00076
覺めぎはの夢は何言ひしや大きく光る目持てる埃及壁畫の女
サメギハノ ユメハナニイヒシヤ オオキクヒカル メモテルエジプト ヘキガノオンナ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.30
【初出】 『形成』 1955.4 残夢 (2)


00077
雨の音聽きつつ夜半を目覺めゐて濡れて光りゐむ木膚を思ふ
アメノオト キキツツヨワヲ メザメヰテ ヌレテヒカリヰム キハダヲオモフ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.30
【初出】 『形成』 1955.9 経緯 (9)