起伏


00090
送らむと言ふを拒みて歸り来つ行きずりの人と今は思はむ
オクラムト イフヲコバミテ カエリキツ ユキズリノヒトト イマハオモハム

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.36
【初出】 『形成』 1954.2 母 (4)


00091
オポチュニストと低く呟きふり返るベレーかぶれる彼の背後を
オポチュニストト ヒククツブヤキ フリカエル ベレーカブレル カレノハイゴヲ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.36
【初出】 『形成』 1953.7 寂しき言葉 (5)


00092
何か含める友の饒舌と思へればはためくカーテンを括らむと立つ
ナニカフクメル トモノジョウゼツト オモヘレバ ハタメクカーテンヲ ククラムトタツ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.37
【初出】 『短歌』 1954.11 古き樂譜 (15)


00093
俗物と呼ばれつつ或る強さ持つ友と思ひ幾日腦裡を去らず
ゾクブツト ヨバレツツアル ツヨサモツ トモトオモヒイクニチ ノウリヲサラズ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.37
【初出】 『形成』 1954.11 教職 (5)


00094
わが生活を如何に見て歸りしか飛躍せよと友は手紙に書き添へて來ぬ
ワガセイカツヲ イカニミテカエリシカ ヒヤクセヨト トモハテガミニ カキソヘテキヌ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.37
【初出】 『形成』 1953.10 職掌 (13)


00095
交叉路を越え來し女工員の隊列より今し湧き起るザ・バイカル湖の唄
コウサロヲ コエコシジョコウインノ タイレツヨリ イマシワキオコル ザバイカルコノウタ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.38
【初出】 『形成』 1954.7 風塵 (5)


00096
孤立せむ祖國思ふ交々の論の果て十年後の日本を信ぜむといふ若き一人は
コリツセム ソコクオモフコモゴモノ ロンノハテ ジュウネンゴノニホンヲシンゼムトイフ ワカキヒトリハ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.38


00097
ネール首相を論じ來しわれら消極的になるを戒め合ひて別れぬ
ネールシュショウヲ ロンジコシワレラ ショウキョクテキニ ナルヲイマシメ アヒテワカレヌ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.38
【初出】 『形成』 1954.6 流離 (3)


00098
カロッサに目は開かれつとある後記賜びし詩集に幾日憑かるる
カロッサニ メハヒラカレツト アルコウキ タビシシシュウニ イクカツカルル

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.39
【初出】 『短歌』 1954.11 古き樂譜 (8)


00099
アルバイトより歸れる妹フランス語の動詞變化を誦しゐるけはひ
アルバイトヨリ カエレルイモウト フランスゴノ ドウシヘンカヲ ズシヰルケハヒ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.39
【初出】 『形成』 1954.8 余波 (8)


00100
俄かに胸に火點きし如く夜更かして論據となさむ章句書き抜く
ニワカニムネニ ヒツキシゴトク ヨフカシテ ロンキョトナサム ショウクカキヌク

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.39
【初出】 『形成』 1954.8 余波 (9)