まぼろしの椅子


00101
かたはらにおく幻の椅子一つあくがれて待つ夜もなし今は
カタハラニ オクマボロシノ イスヒトツ アクガレテマツ ヨモナシイマハ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.40
【初出】 『形成』 1955.7 起伏 (2)


00102
抽象的な人間と人に言はれしことまた思ふ夕餉のサラダまぜてゐて
チュウショウテキナ ニンゲントヒトニ イハレシコト マタオモフユウゲノ サラダマゼテヰテ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.40
【初出】 『形成』 1955.1 微雨 (8)


00103
たはやすき未來ならず今の平衡の永き持續を恃まむとする
タハヤスキ ミライナラズイマノ ヘイコウノ ナガキジゾクヲ タノマムトスル

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.41
【初出】 『形成』 1955.7 起伏 (3)


00104
渇きゆく日々と思ふに野いばらはグラスの水吸ひ上げて次々に咲く
カワキユク ヒビトオモフニ ノイバラハ グラスノミズスイアゲテ ツギツギニサク

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.41
【初出】 『形成』 1955.7 起伏 (4)


00105
ながくわれを苛める貌もわが中に嚙み碎かれて像を結ばず
ナガクワレヲ サイナメルカオモ ワガナカニ カミクダカレテ ゾウヲムスバズ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.41
【初出】 『形成』 1955.7 起伏 (5)


00106
われを伴ひて遁れむと言ふノアもなし裾濡らし雨の鋪道を歸る
ワレヲトモナヒテ ノガレムトイフ ノアモナシ スソヌラシアメノ ホドウヲカエル

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.42
【初出】 『形成』 1955.7 起伏 (6)


00107
水びたしの日本列島と思ひめざめゐつ夜の更けてまた降りつのる雨
ミズビタシノ ニホンレットウトオモヒ メザメヰツ ヨノフケテマタ フリツノルアメ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.42
【初出】 『形成』 1954.12 村落 (10)


00108
醉へば亂れて歸る夫を夜々にみとりたる来し方も今の獨りも寂し
ヨヘバミダレテ カエルツマヲヨヨニ ミトリタル コシカタモイマノ ヒトリモサビシ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.42
【初出】 『形成』 1955.1 微雨 (7)


00109
神々も渇く夜あらむわがひとり夜更くればまた眠る外なく
カミガミモ カワクヨアラム ワガヒトリ ヨフクレバマタ ネムルホカナク

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.43
【初出】 『形成』 1955.7 起伏 (9)


00110
風落ちてまた雨となれる夜半に覺む猜疑より遁るる如く眠りし
カゼオチテ マタアメトナレル ヨワニサム サイギヨリノガルル ゴトクネムリシ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.43
【初出】 『形成』 1955.7 起伏 (10)