潮の音


00111
よるべなく旅ゆくこころ灣口にかかりて船は汽笛を鳴らす
ヨルベナク タビユクココロ ワンコウニ カカリテフネハ キテキヲナラス

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.44
【初出】 『短歌研究』 1955.4 まなうらの像 (17)


00112
何に亂れてゐたる心ぞ沖遠きいさり火もいつか消えて跡なし
ナニニミダレテ ヰタルココロゾ オキトオキ イサリビモイツカ キエテアトナシ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.44
【初出】 『形成』 1955.7 起伏 (7)


00113
葉の色にまがふひそかな花を持つ木ありしきりに樹脂を匂はす
ハノイロニ マガフヒソカナ ハナヲモツ キアリシキリニ ジュシヲニオハス

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.45
【初出】 『形成』 1955.7 起伏 (8)


00114
わが中の循環に終らむ思慕と思ふ遠き山なみ見つつぞ歩む
ワガナカノ ジュンカンニオワラム シボトオモフ トオキヤマナミ ミツツゾアユム

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.45
【初出】 『短歌研究』 1955.4 まなうらの像 (18)


00115
冬枯れの草山に來て何憶ふ今はたれより遠きかの人
フユガレノ クサヤマニキテ ナニオモフ イマハタレヨリ トオキカノヒト

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.45
【初出】 『形成』 1955.5 春寒 (10)


00116
今一つの超克を希ふわがこころ夜の靄の底に海は轟く
イマヒトツノ チョウコクヲネガフ ワガココロ ヨノモヤノソコニ ウミハトドロク

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.46
【初出】 『短歌研究』 1955.4 まなうらの像 (19)


00117
おのづからなる乖離を今は希ふ身に何をいざなふ遠き潮の音
オノズカラナル カイリヲイマハ ネガウミニ ナニヲイザナフ トオキシオノネ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.46
【初出】 『短歌研究』 1955.4 まなうらの像 (20)