麥笛


00118
夕餉の間に沸きし湯みたし髪洗ふ明日は遠く取材に赴かむとして
ユウゲノマニ ワキシユミタシ カミアラフ アスハトオクシュザイニ オモムカムトシテ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.47
【初出】 『形成』 1955.4 残夢 (10)


00119
揉み手なす手代のさまも古風なる城下町の店に家づとを買ふ
モミテナス テダイノサマモ コフウナル ジョウカマチノタナニ イエヅトヲカフ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.47
【初出】 『短歌』 1954.11 古き樂譜 (12)


00120
原始民族の住居の趾の丘低くさいさいと風渡る笹原
ゲンシミンゾクノ ジュウキョノアトノ オカヒクク サイサイトカゼ ワタルササハラ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.48
【初出】 『形成』 1955.4 残夢 (11)


00121
インターヴュウを終へ來てくだる丘の道風にとぎれつつ麥笛聞ゆ
インタービュウヲ オヘキテクダル オカノミチ カゼニトギレツツ ムギブエキコユ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.48
【初出】 『形成』 1955.8 短夜 (3)


00122
取材終へて辻にバス待つかたはらをわらび摘み來し子ら歸りゆく
シュザイオヘテ ツジニバスマツ カタハラヲ ワラビツミコシ コラカエリユク

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.48
【初出】 『形成』 1955.8 短夜 (4)


00123
ゆられつつまどろめる時バスとまり田植ゑ歸りの乙女らを乘す
ユラレツツ マドロメルトキ バストマリ タウヱガエリノ オトメラヲノス

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.49
【初出】 『形成』 1955.8 短夜 (5)


00124
人を待てるさまと見しゆゑ聲かけず驛前の雜沓に紛れ入り來ぬ
ヒトヲマテル サマトミシユヱ コエカケズ エキマエノザットウニ マギレイリキヌ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.49
【初出】 『形成』 1955.8 短夜 (6)