海岸線


00157
港の町にひとり赴任せし遠き日を思ふ病みゐし父も既に亡し
ミナトノマチニ ヒトリフニンセシ トオキヒヲ オモフヤミヰシ チチモスデニナシ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.62
【初出】 『形成』 1955.2 海岸線 (1)


00158
獨り住みて潮鳴り高き冬の夜々三陸はシベリアの如しと思ひき
ヒトリスミテ シオナリタカキ フユノヨヨ サンリクハシベリアノ ゴトシトオモヒキ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.62
【初出】 『形成』 1955.2 海岸線 (2)


00159
上京せむ決意のゆらぐ日もありき明るく生徒らに取り巻かれつつ
ジョウキョウセム ケツイノユラグ ヒモアリキ アカルクセイトラニ トリマカレツツ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.63
【初出】 『形成』 1955.2 海岸線 (3)


00160
港の女學校に勤めゐて君と結ばれし日を戀ふひとり病めば寂しく
ミナトノジョガッコウニ ツトメヰテキミト ムスバレシ ヒヲコフヒトリ ヤメバサビシク

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.63
【初出】 『形成』 1955.2 海岸線 (4)


00161
とはに續かむ幸と思ひきリアス海岸の入江の街に君と住みつつ
トハニツヅカム サチトオモヒキリアス カイガンノ イリエノマチニ キミトスミツツ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.63
【初出】 『形成』 1955.2 海岸線 (5)


00162
河口近き橋に待ちくれしかの夜々の像も影繪のごとく薄れつ
カコウチカキ ハシニマチクレシ カノヨヨノ ゾウモカゲエノ ゴトクウスレツ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.64


00163
北の涯の海のひびきのなつかしく失ひし夢また復るなし
キタノハテノ ウミノヒビキノ ナツカシク ウシナヒシユメ マタカヘルナシ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.64
【初出】 『形成』 1955.2 海岸線 (6)


00164
今ひとつの絆斷つともなまなかの若さもちてながく苦しみゆかむ
イマヒトツノ キヅナタツトモ ナマナカノ ワカサモチテナガク クルシミユカム

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.64
【初出】 『形成』 1955.2 海岸線 (7)