妹の囁き


00165
耳遠き母も漸く住み慣れて坂くだり買ひ物にゆくを樂しむ
ミミトオキ ハハモヨウヤク スミナレテ サカクダリカイモノニ ユクヲタノシム

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.65
【初出】 『形成』 1955.6 風聞 (8)


00166
母の愛情に縛られると洩らす妹の肩に垂るる髪切り揃へやる
ハハノアイジョウニ シバラレルトモラス イモウトノ カタニタルルカミ キリソロエヤル

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.65
【初出】 『形成』 1955.6 風聞 (7)


00167
母の心配をうとむ言葉われに囁きて夕方より圖書館に出でゆく妹
ハハノシンパイヲ ウトムコトバワレニ ササヤキテ ユウガタヨリトショカンニ イデユクイモウト

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.66
【初出】 『形成』 1955.4 残夢 (13)


00168
せめて最後の學年は働かずに學ばせたし夜更かして妹は英詩を譯す
セメテサイゴノ ガクネンハハタラカズニ マナバセタシ ヨフカシテイモウトハ エイシヲヤクス

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.66
【初出】 『形成』 1955.4 残夢 (14)


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學寮をあばく記事讀みゐて渇ける目持てる記者よと妹の言ふ
ガクリョウヲ アバクキジヨミヰテ カワケルメ モテルキシャヨト イモウトノイフ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.66
【初出】 『形成』 1955.4 残夢 (15)