秋草の花


00175
放ち飼ひの仔馬ら寄りて草はめりひと方に牧の穂草はなびく
ハナチガヒノ コウマラヨリテ クサハメリ ヒトカタニマキノ ホグサハナビク

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.69
【初出】 『形成』 1955.1 微雨 (11)


00176
秋草にうもれて返り咲くつつじ淺間はあはき噴煙をまとふ
アキグサニ ウモレテカエリ サクツツジ アサマハアハキ ケムリヲマトフ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.69
【初出】 『形成』 1955.2 海岸線 (8)


00177
みたさるる日はとはになき思慕かとも秋草枯るる野に歩み出づ
ミタサルル ヒハトハニナキ シボカトモ アキクサカルル ノニアユミイヅ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.70
【初出】 『形成』 1955.2 海岸線 (9)


00178
羊齒類の葉先より枯るる下草を踏みゆく無礙のこころとなりて
シダルイノ ハサキヨリカルル シタクサヲ フミユクムゲノ ココロトナリテ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.70
【初出】 『形成』 1955.1 微雨 (10)


00179
暮れ果つるまで淺間山見て歸り來ぬ日記を閉ぢてのびのびと寢む
クレハツル マデアサマヤマミテ カエリキヌ ニッキヲトヂテ ノビノビトネム

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.70
【初出】 『形成』 1955.2 海岸線 (10)


00180
山裾の濕原をさまよひ來し一日歸らぬ人にまたこころ寄る
ヤマスソノ シツゲンヲサマヨヒ コシヒトヒ カエラヌヒトニ マタココロヨル

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.71
【初出】 『形成』 1955.2 海岸線 (11)


00181
よろぼへる心よ深きつまづきを如何に處理して踏み石とせむ
ヨロボヘル ココロヨフカキ ツマヅキヲ イカニショリシテ フミイシトセム

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.71
【初出】 『形成』 1955.2 海岸線 (12)


00182
眞向より恚り向け得む相手にあらぬことまた底ひなき寂しさを呼ぶ
マッカウヨリ イカリムケエム アイテニアラヌコト マタソコヒナキ サビシサヲヨブ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.71
【初出】 『形成』 1955.2 海岸線 (13)


00183
悔さへも深くちりばめて生きなむか自在に描く未來は遠し
クイサヘモ フカクチリバメテ イキナムカ ジザイニエガク ミライハトオシ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.72
【初出】 『形成』 1955.2 海岸線 (14)