夜の靄


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幼な子を背に攀ぢさせてなごみいましきまかり來て心深くぬくもる
オサナゴヲ セニヨジサセテ ナゴミイマシキ マカリキテココロ フカクヌクモル

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.76
【初出】 『形成』 1954.11 教職 (7)


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ねぎらはれゐたるを思ふ別れ來て夜の靄にまぎるる如く歩めり
ネギラハレ ヰタルヲオモフ ワカレキテ ヨノモヤニマギルル ゴトクアユメリ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.76
【初出】 『形成』 1955.5 春寒 (8)


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あと一年は着ねばならぬコート窓に吊り防水液を吹きつけてゆく
アトイチネンハ キネバナラヌコート マドニツリ ボウスイエキヲ フキツケテユク

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.77
【初出】 『短歌』 1954.11 古き樂譜 (3)


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防水液は塗るかたへより乾きゆく縞のパラソル廻しつつ塗る
ボウスイエキハ ヌルカタヘヨリ カワキユク シマノパラソル マワシツツヌル

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.77


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未亡人の姉妹が住む隣りの部屋今朝は髪洗ひなごめるらしも
ミボウジンノ シマイガスム トナリノヘヤ ケサハカミアラヒ ナゴメルラシモ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.77
【初出】 『形成』 1955.4 残夢 (3)


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ユモレスクのふし吟み階くだる逢はば苦しむわれと思ふに
ユモレスクノ フシクチズサミ カイクダル アハバクルシム ワレトオモフニ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.78
【初出】 『形成』 1955.4 残夢 (1)


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迂曲しつつ生くる身と思ひ歩めるにキャメラマンが肩聳して過ぐ
ウキョクシツツ イクルミトオモヒ アユメルニ キャメラマンガカタ ソビヤカシテスグ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.78
【初出】 『形成』 1955.5 春寒 (9)


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背高き妹に似合ふや縫ひ終へし水色のドレスをたたみ眠らむ
セイタカキ イモウトニニアフヤ ヌヒオヘシ ミズイロノドレスヲ タタミネムラム

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.78
【初出】 『形成』 1954.8 余波 (10)