去來


00207
いくとせを君と貼り來しスクラップ途切れて未來へ續かぬ過去よ
イクトセヲ キミトハリコシ スクラップ トギレテミライヘ ツヅカヌカコヨ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.82
【初出】 『形成』 1954.10 去来 (1)


00208
或る時はむごくも聞ゆ自活の能力持てるを言ひて人の勵ます言葉
アルトキハ ムゴクモキコユ ジカツノノウリョク モテルヲイヒテヒトノ ハゲマスコトバ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.82
【初出】 『形成』 1954.10 去来 (2)


00209
何を無爲に待つかと人は怪しまむ悲劇も漸く移ろふものを
ナニヲムイニ マツカトヒトハ アヤシマム ヒゲキモヨウヤク ウツロフモノヲ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.83
【初出】 『形成』 1954.10 去来 (3)


00210
逢はばまた心は亂れむ怯懦とも倨傲とも言はれつつ逢ひがたし
アハバマタ ココロハミダレム キョウダトモ キョゴウトモイハレ ツツアヒガタシ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.83
【初出】 『形成』 1954.10 去来 (4)


00211
甘えむ相手を持たぬ身の朝より寂しくて有明けのあはき月に見とるる
アマエムアイテヲ モタヌミノアサヨリ サビシクテ アリアケノアハキ ツキニミトルル

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.83
【初出】 『形成』 1954.11 教職 (4)


00212
わが歎き内攻するを母は怖るるや悲しき時は哭けと言ひて歸りぬ
ワガナゲキ ナイコウスルヲハハハ オソルルヤ カナシキトキハナケト イヒテカエリヌ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.84
【初出】 『形成』 1954.12 村落 (6)


00213
ハンカチ幾枚ためて夜更けに洗へるを隣室の女見て通りたり
ハンカチイクマイ タメテヨフケニ アラヘルヲ リンシツノオンナ ミテトオリタリ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.84
【初出】 『形成』 1954.12 村落 (7)


00214
獨り居の身に相應ひゆくや本棚の裏にひそみてこほろぎの鳴く
ヒトリイノ ミニフサヒユクヤ ホンダナノ ウラニヒソミテ コホロギノナク

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.84
【初出】 『形成』 1954.12 村落 (10)


00215
カシオペアの夜々澄む季節めぐり來て古き星圖を書棚に探す
カシオペアノ ヨヨスムキセツ メグリキテ フルキセイズヲ ショダナニサガス

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.85
【初出】 『形成』 1955.1 微雨 (9)


00216
出張要務終へ來て村の市に買ふ冬越えて咲かむ花の球根幾種
シュッチョウヨウム オヘテキテムラノ イチニカフ フユコエテサカムハナノ キュウコンイクシュ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.85
【初出】 『形成』 1954.12 村落 (11)


00217
わが未來のみ氣遣ふ手紙くるる母のため歸り來て水仙の球根を植う
ワガミライノミ キヅカフテガミクルル ハハノタメ カエリキテスイセンノ キュウコンヲウウ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.85
【初出】 『形成』 1954.12 村落 (12)