砂礫


00226
甘酸ゆき香のこもりゐむ桐の花野末に見つつわがバスは過ぐ
アマズユキ カノコモリヰム キリノハナ ノズエニミツツ ワガバスハスグ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.89
【初出】 『形成』 1954.6 流離 (9)


00227
たかむらに埋もれて低き藁の屋根一夜の宿を乞はむとぞ佇つ
タカムラニ ウモレテヒクキ ワラノヤネ ヒトヨノヤドヲ コワムトゾタツ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.89
【初出】 『形成』 1953.10 職掌 (6)


00228
苦しみて積み累ね來しはただ砂礫の如きかと旅寢の夜半にし思ふ
クルシミテ ツミカサネコシハ タダサレキノ ゴトキカトタビネノ ヨワニシオモフ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.90
【初出】 『形成』 1954.9 砂礫 (1)


00229
既に無理はきかぬ年齡と思ふ身にたはやすく人は離別を勸む
スデニムリハ キカヌネンレイト オモフミニ タハヤスクヒトハ リベツヲススム

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.90
【初出】 『形成』 1954.7 風塵 (9)


00230
小さき祠をまつれる丘の朝ぐもり牛使ひつつ人の耕す
チイサキホコラヲ マツレルオカノ アサグモリ ウシツカヒツツ ヒトノタガヤス

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.90
【初出】 『形成』 1954.9 砂礫 (2)


00231
曇りつつ明るき芝生メムバーの揃はぬ野球を子らは續くる
クモリツツ アカルキシバフ メムバーノ ソロハヌヤキュウヲ コラハツヅクル

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.91
【初出】 『形成』 1954.9 砂礫 (3)


00232
心渇くともみづから癒やす外はなし夜半の水道は飛沫をあぐる
ココロカワクトモ ミヅカライヤス ホカハナシ ヨワノスイドウハ ヒマツヲアグル

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.91
【初出】 『形成』 1954.9 砂礫 (4)


00233
孤獨にゐて人を恕すことも易からずまた堰を切りて悲しみは來る
コドクニヰテ ヒトヲユルスコトモ ヤスカラズ マタセキヲキリテ カナシミハクル

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.91
【初出】 『形成』 1954.9 砂礫 (5)


00234
秘めて來し被虐の過程をあばくごとあてなき手記を夜々綴りゆく
ヒメテコシ ヒギャクノカテイヲ アバクゴト アテナキシュキヲ ヨヨツヅリユク

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.92
【初出】 『形成』 1954.9 砂礫 (6)


00235
累ね來し錯誤と思へどその過去に規制されゆく未來と知れり
カサネコシ サクゴトオモヘド ソノカコニ キセイサレユク ミライトシレリ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.92
【初出】 『形成』 1954.9 砂礫 (7)


00236
手は何にさしのべむ如何に描くとも茫々と寂しわが未來像
テハナニニ サシノベムイカニ エガクトモ ボウボウトサビシ ワガミライゾウ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.92
【初出】 『形成』 1954.9 砂礫 (8)


00237
夢の中に鳴り續けゐし竪琴の音か夜半覺めて雨だれを聽く
ユメノナカニ ナリツヅケヰシ タテゴトノ ネカヨワサメテ アマダレヲキク

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.93
【初出】 『形成』 1954.7 風塵 (11)


00238
眠れざりしことも忘れむ朝の井戸端に兩耳の裏を念入れて拭く
ネムレザリシ コトモワスレムアサノ イドバタニ リョウミミノウラヲ ネンイレテフク

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.93
【初出】 『形成』 1953.10 職掌 (12)