流離


00239
冷たき女などと噂されてゐるも知る憎み切れず永くわが苦しむに
ツメタキオンナ ナドトウワササレテ ヰルモシル ニクミキレズナガク ワガクルシムニ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.94
【初出】 『形成』 1954.6 流離 (1)


00240
それぞれに孤獨ゆゑ手をつながむと言ひくれし友にも久しく逢へず
ソレゾレニ コドクユヱテヲ ツナガムト イヒクレシトモニモ ヒサシクアヘズ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.94
【初出】 『形成』 1954.6 流離 (2)


00241
芥燒きし跡を見廻り來て灯をともす今宵は母に便りを書かむ
アクタヤキシ アトヲミマワリキテ ヒヲトモス コヨイハハハニ タヨリヲカカム

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.95
【初出】 『形成』 1954.6 流離 (4)


00242
花の木など植ゑて住むべき家持つは何時の日ぞ部屋の隅に炊げり
ハナノキナド ウヱテスムベキ イエモツハ イツノヒゾヘヤノ スミニカシゲリ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.95
【初出】 『形成』 1954.6 流離 (5)


00243
立ち直りゆきたし君の背離さへ一つのアンチテーゼとなして
タチナオリ ユキタシキミノ ハイリサヘ ヒトツノアンチ テーゼトナシテ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.95
【初出】 『形成』 1954.6 流離 (6)


00244
子は鎹などと言ひ合ひて子無きわれの別れ住めるを人のはかなむ
コハカスガヒ ナドトイヒアヒテ コナキワレノ ワカレスメルヲ ヒトノハカナム

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.96
【初出】 『形成』 1954.8 余波 (1)


00245
一氣に坂を驅け下りる如きその末路を思へば君も寂しき一人
イッキニサカヲ カケオリルゴトキ ソノマツロヲ オモヘバキミモ サビシキヒトリ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.96
【初出】 『形成』 1954.8 余波 (2)


00246
別れ住むと知らず來し君が敎へ子ら九時まで待たせて歸しやりたり
ワカレスムト シラズキシキミガ オシヘゴラ クジマデマタセテ カエシヤリタリ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.96
【初出】 『形成』 1954.8 余波 (3)


00247
息詰めて向ひ風に堪ふる姿勢とも人を疎みてこもる日續く
イキツメテ ムカヒカゼニタフル シセイトモ ヒトヲウトミテ コモルヒツヅク

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.97
【初出】 『形成』 1954.7 風塵 (8)


00248
讀みさしの聖書ロマ書の一章を今日來し妹も母も見つらむ
ヨミサシノ セイショロマショノ イッショウヲ キョウコシイモウトモ ハハモミツラム

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.97
【初出】 『形成』 1954.7 風塵 (7)


00249
藤浪も美し來よと便りくれし奈良の敎へ子を一日思へり
フジナミモ ウツクシコヨト タヨリクレシ ナラノオシヘゴヲ ヒトヒオモヘリ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.97
【初出】 『形成』 1954.7 風塵 (10)


00250
木蓮の落花一ひら拾ひ上ぐ女一人生きてゆかねばならぬ
モクレンノ ラッカヒトヒラ ヒロヒアグ オンナヒトリイキテ ユカネバナラヌ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.98
【初出】 『形成』 1954.6 流離 (8)