夜半の思ひ


00257
うちつけに理解さるると思はねどパンセの句引きて返事書き終ふ
ウチツケニ リカイサルルト オモハネド パンセノクヒキテ ヘンジカキオフ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.102
【初出】 『形成』 1954.1 周辺 (6)


00258
眞實は必ず通らむなどと説きて世事にはうとき敎師なりしよ
シンジツハ カナラズトオラム ナドトトキテ セジニハウトキ キョウシナリシヨ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.102
【初出】 『形成』 1954.1 周辺 (5)


00259
憎むより愍れめば心は休まると悟り來ぬ二十代も過ぎむとしつつ
ニクムヨリ アワレメバココロハ ヤスマルト サトリキヌニジュウダイモ スギムトシツツ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.103
【初出】 『形成』 1954.2 母 (1)


00260
空白の時間をかき消すよすがとも指痛めつつもの編み續く
クウハクノ ジカンヲカキケス ヨスガトモ ユビイタメツツ モノアミツヅク

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.103
【初出】 『形成』 1954.4 波紋 (7)


00261
減らし目を忘れて編みゐし袖を解く夜半の思ひのはずむことなし
ヘラシメヲ ワスレテアミヰシ ソデヲトク ヨワノオモヒノ ハズムコトナシ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.103
【初出】 『形成』 1954.4 波紋 (8)


00262
せめて深き眠りを得たし今宵ひとり食べ餘したる林檎が匂ふ
セメテフカキ ネムリヲエタシ コヨイヒトリ タベアマシタル リンゴガニオフ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.104
【初出】 『形成』 1954.4 波紋 (9)


00263
うらぶれし夜半の心ぞ眠れぬままに起き出でて鍋を磨き始めぬ
ウラブレシ ヨワノココロゾ ネムレヌママニ オキイデテナベヲ ミガキハジメヌ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.104
【初出】 『形成』 1954.4 波紋 (10)


00264
君が心を占めゐるは何ぞボヘミアンの如き貌して夜半歸り來ぬ
キミガココロヲ シメヰルハナンゾ ボヘミアンノ ゴトキカオシテ ヨワカエリキヌ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.104
【初出】 『形成』 1954.4 波紋 (11)


00265
君と同じ見方なし得ぬ寂しさも超えゆかむながき月日をかけて
キミトオナジ ミカタナシエヌ サビシサモ コエユカムナガキ ツキヒヲカケテ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.105
【初出】 『形成』 1954.2 母 (3)


00266
告げ難き悲しみ持つと知る母か薔薇切りて驛まで見送りくれぬ
ツゲガタキ カナシミモツト シルハハカ バラキリテエキマデ ミオクリクレヌ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.105
【初出】 『形成』 1954.9 砂礫 (9)