職掌


00267
編輯者なる肩書ゆゑにもてなされしかと思ふ歸りのバスに揺られつつ
ヘンシュウシャナル カタガキユヱニ モテナサレシカト オモフカエリノ バスニユラレツツ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.106
【初出】 『形成』 1954.4 波紋 (1)


00268
彩りもなきパンフレットを月々に編みつつ何時まで勤め得む身ぞ
イロドリモ ナキパンフレットヲ ツキヅキニ アミツツイツマデ ツトメエムミゾ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.106
【初出】 『形成』 1954.4 波紋 (2)


00269
編輯の中立のために捨てねばならぬ論説一つ讀み返しゆく
ヘンシュウノ チュウリツノタメニ ステネバナラヌ ロンセツヒトツ ヨミカエシユク

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.107
【初出】 『形成』 1954.4 波紋 (3)


00270
晝食後を今日も襲はるる懈怠感廊下には既に印刷屋が待つ
チュウショクゴヲ キョウモオソハルル ケタイカン ロウカニハスデニ インサツヤガマツ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.107
【初出】 『形成』 1954.4 波紋 (4)


00271
語氣荒く誤植を指摘し來し手紙朝よりふさぎゐしわれを衝つ
ゴキアラク ゴショクヲシテキシ コシテガミ アサヨリフサギ ヰシワレヲウツ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.107
【初出】 『形成』 1954.5 危き未来 (9)


00272
醉ひにまぎらしてわが編輯のマンネリズムを衝きし一人も歸りゆきたり
ヨヒニマギラシテ ワガヘンシュウノ マンネリズムヲ ツキシヒトリモ カエリユキタリ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.108
【初出】 『形成』 1954.4 波紋 (5)


00273
人を庇ひてみづからの立場を狭めゆくわれかと思ふ協議終へ來て
ヒトヲカバヒテ ミヅカラノタチバヲ セバメユク ワレカトオモフ キョウギオヘキテ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.108
【初出】 『形成』 1954.4 波紋 (6)


00274
おのづから守勢に立てる如き一日押し默り原稿を割り付けてゆく
オノヅカラ シュセイニタテル ゴトキヒトヒ オシダマリゲンコウヲ ワリツケテユク

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.108
【初出】 『形成』 1954.8 余波 (4)


00275
頭の皮膚の痛み來れば鬢どめを外しつつ要點速記を續く
アタマノヒフノ イタミキタレバ ビンドメヲ ハズシツツヨウテン ソッキヲツヅク

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.109
【初出】 『形成』 1954.8 余波 (5)


00276
助成金も削られたりと言ふを聞く「子供守る會」の記事取りに來て
ジョセイキンモ ケズラレタリト イフヲキク コドモマモルカイノ キジトリニキテ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.109
【初出】 『形成』 1954.7 風塵 (1)


00277
子供會を終へて幼な等歸りゆけばただ靜かなり庫裏の君が部屋
コドモカイヲ オヘテオサナラ カエリユケバ タダシズカナリ クリノキミガヘヤ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.109
【初出】 『形成』 1954.7 風塵 (2)


00278
基地の近きことにも觸れつつ子供會を守り抜かむと語る君若し
キチノチカキ コトニモフレツツ コドモカイヲ マモリヌカムト カタルキミワカシ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.110
【初出】 『形成』 1954.7 風塵 (3)


00279
わが知らぬ讀者より勵まし來し手紙校正を終へたる夕べに讀めり
ワガシラヌ ドクシャヨリハゲマシ コシテガミ コウセイヲオヘタル ユウベニヨメリ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.110
【初出】 『形成』 1954.7 風塵 (4)