山茶花


00293
蹠より冷えくる夕べ頭痛藥のみて會議録とる席に戻りぬ
アナウラヨリ ヒエクルユウベ ズツウヤクノミテ カイギロクトル セキニモドリヌ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.116
【初出】 『形成』 1954.2 母 (2)


00294
人の不和の間隙を縫ひてわが得ゆく平安と思ふ記帳なしゐて
ヒトノフワノ カンゲキヲヌイテ ワガエユク ヘイアントオモフ キチョウナシヰテ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.116
【初出】 『形成』 1953.12 現実 (3)


00295
われのために禁句となりゐる言葉なきや晝の事務所脱けてインコ見にゆく
ワレノタメニ キンクトナリイル コトバナキヤ ヒルノジムショヌケテ インコミニユク

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.117


00296
何時までも合はぬ算盤にいらちゆく西陽をまともに受くる座席に
イツマデモ アハヌソロバンニ イラチユク ニシビヲマトモニ ウクルザセキニ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.117
【初出】 『形成』 1954.1 周辺 (7)


00297
他人の恣意の犠牲にさへもなり易き地位と思へり残務なしつつ
タニンノシイノ ギセイニサヘモ ナリヤスキ チイトオモヘリ ザンムナシツツ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.117
【初出】 『形成』 1953.12 現実 (5)


00298
校正に通ひ慣れたるこの坂のほとりに今年も山茶花咲けり
コウセイニ カヨヒナレタル コノサカノ ホトリニコトシモ サザンカサケリ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.118
【初出】 『形成』 1954.1 周辺 (10)


00299
星明りに材木を積む音しをり終電を降りてよぎる空地に
ホシアカリニ ザイモクヲツム オトシヲリ シュウデンヲオリテ ヨギルアキチニ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.118
【初出】 『形成』 1954.1 周辺 (3)


00300
トラックの尾燈に寄りて跼まる男二人擴げし紙に何讀むならむ
トラックノ ビトウニヨリテセグクマル オトコフタリ ヒロゲシカミニ ナニヨムナラム

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.118


00301
白く乾きしガーゼたためり對岸の灯がまたたきて見ゆる窓邊に
シロクカワキシ ガーゼタタメリ タイガンノ ヒガマタタキテ ミユルマドベニ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.119
【初出】 『形成』 1954.1 周辺 (1)


00302
寢る前に焜爐に石油みたしおくならはしよ視野狹く生きつつ
ネルマエニ コンロニセキユ ミタシオク ナラハシヨシヤ セマクイキツツ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.119
【初出】 『形成』 1954.1 周辺 (2)


00303
校正終へて歸り來し夜半目の上に濡らせるガーゼのせて寢むとす
コウセイオヘテ カエリコシヨワ メノウエニ ヌラセルガーゼ ノセテネムトス

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.119
【初出】 『形成』 1953.12 現実 (6)