残務


00304
少し威張つて見たいのならむと思ひ直し書類整理をまた始めたり
スコシイバツテ ミタイノナラムト オモヒナオシ ショルイセイリヲ マタハジメタリ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.120
【初出】 『朱扇』 1952.6 事務服 (1)


00305
報いらるるを秘かに期待してゐしか居殘りて謄寫なしつつ寂し
ムクイラルルヲ ヒソカニキタイ シテヰシカ イノコリテトウシャ ナシツツサビシ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.120
【初出】 『形成』 1953.5 風の音 (5)


00306
刷り上げし書類綴ぢゆく夜の事務所マフラーを擴げて膝覆ひつつ
スリアゲシ ショルイトヂユク ヨノジムショ マフラーヲヒロゲテ ヒザオオヒツツ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.121
【初出】 『形成』 1953.5 風の音 (6)


00307
一日彼と口をきかざりし快感もはかなし一人殘務なしつつ
ヒトヒカレト クチヲキカザリシ カイカンモ ハカナシヒトリ ザンムナシツツ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.121
【初出】 『形成』 1953.6 あけくれ (1)


00308
苦しめられしことも忘れむ中年の人のもつ寂しき打算と思ひて
クルシメラレシ コトモワスレム チュウネンノ ヒトノモツサビシキ ダサントオモヒテ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.121
【初出】 『形成』 1953.6 あけくれ (2)


00309
靑年團體の再統合の要をしきりに説く横顏憎くまじまじと見つ
セイネンダンタイノ サイトウゴウノカナメヲ シキリニトク ヨコガオニクク マジマジトミツ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.122
【初出】 『形成』 1955.1 微雨 (5)


00310
ありのままを言ひしかばまた憎まれむ會果てて一人歸り來りぬ
アリノママヲ イヒシカバマタ ニクマレム カイハテテヒトリ カエリキタリヌ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.122
【初出】 『形成』 1953.6 あけくれ (3)


00311
表紙繪をたのみに來にし谷の村菜種の花が一めんに燃ゆ
ヒョウシエヲ タノミニキニシ ヤツノムラ ナタネノハナガ イチメンニモユ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.122
【初出】 『形成』 1953.6 あけくれ (6)


00312
蘇芳色に何の花か咲ける丘の上にわが訪ひゆかむアトリエが見ゆ
スオウイロニ ナンノハナカサケル オカノウエニ ワガトヒユカム アトリエガミユ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.123
【初出】 『形成』 1953.6 あけくれ (7)


00313
折り合ひのつかぬまま今日は別れ來つ夕べの霧に耳がつめたし
オリアヒノ ツカヌママキョウハ ワカレキツ ユウベノキリニ ミミガツメタシ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.123
【初出】 『形成』 1953.6 あけくれ (4)