母の希ひ


00314
満ち足れる如く思はせ來しことも負擔となりつ母と對へば
ミチタレル ゴトクオモハセ コシコトモ フタントナリツ ハハトムカヘバ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.124
【初出】 『形成』 1954.2 母 (5)


00315
羽振りよき隣家を羨めど商ひなど所詮なし得ずと知りをり母も
ハブリヨキ リンカヲウラヤメド アキナヒナド ショセンナシエズト シリヲリハハモ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.124
【初出】 『形成』 1954.2 母 (6)


00316
北の故郷に住みて死にたしと思ひいます母と知れど誰も觸るることなし
キタノフルサトニ スミテシニタシト オモヒイマス ハハトシレドタレモ フルルコトナシ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.125
【初出】 『形成』 1954.2 母 (9)


00317
幾日もかけて縫ひやりし半コート妹は今日着て見せに來ぬ
イクニチモ カケテヌヒヤリシ ハンコート イモウトハキョウ キテミセニキヌ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.125
【初出】 『形成』 1953.5 風の音 (4)


00318
マルキストの友持ちて苦しむ妹にピアノ買はむ夢などあるが笑ましき
マルキストノ トモモチテクルシム イモウトニ ピアノカハムユメナド アルガエマシキ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.125
【初出】 『形成』 1954.2 母 (11)


00319
辛うじて辻褄を合はせゐし心亂されぬ汝の詮索に遇ひて
カロウジテ ツジツマヲアハセ ヰシココロ ミダサレヌナレノ センサクニアヒテ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.126
【初出】 『形成』 1954.2 母 (12)


00320
われを詰りて歸りゆきしがこの月夜汝も寂しく歩みてをらむ
ワレヲツマリテ カエリユキシガ コノツキヨ ナレモサビシク アユミテヲラム

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.126
【初出】 『形成』 1954.2 母 (13)


00321
姿勢崩さず生きたしと思ひ涙出づ風募る夜半を一人覺めゐて
シセイクズサズ イキタシトオモヒ ナミダイヅ カゼツノルヨワヲ ヒトリサメヰテ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.126
【初出】 『朱扇』 1952.3 狭山紀行 (6)