目次
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全短歌(歌集等)
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まぼろしの椅子
風媒花
諦めて
池の面に
言ひ譯のみ
風媒花の
色褪せし
とげ含む
あさはかに
若きわれには
隣りの主婦に
安らひもなく
強ひられし
われの重荷と
誕生石を
霧深き
00327
諦めて別るるすべも得られむとひとり來し旅の空に虹見つ
アキラメテ ワカルルスベモ エラレムト ヒトリコシタビノ ソラニニジミツ
『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.129
【初出】
『朱扇』 1950.9 旅情 (1)
00328
池の面に白鳥下りて浮かぶ日よ別れむと決めし安らぎにをり
イケノモニ ハクチョウオリテ ウカブヒヨ ワカレムトキメシ ヤスラギニヲリ
『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.129
【初出】
『朱扇』 1950.9 旅情 (3)
00329
言ひ譯のみする生活に疲れゆく嫁とふ位置にわれ慣れがたし
イヒワケノミ スルセイカツニ ツカレユク ヨメトフイチニ ワレナレガタシ
『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.130
【初出】
『朱扇』 1950.9 旅情 (4)
00330
風媒花のごとくはかなしといふ便り嫁ぎゆく友も寂しかるらし
フウバイカノ ゴトクハカナシト イフタヨリ トツギユクトモモ サビシカルラシ
『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.130
【初出】
『朱扇』 1950.11 風媒花 (1)
00331
色褪せし造花も翳をもつ夕べ歸り來て坐ればしみじみ寒し
イロアセシ ゾウカモカゲヲ モツユウベ カエリキテスワレバ シミジミサムシ
『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.130
【初出】
『朱扇』 1951.3 寒き灯 (4)
00332
とげ含む言葉なりしことも思ひ出づ夕べ歸り來て炭出しにつつ
トゲフクム コトバナリシコトモ オモヒイヅ ユウベカエリキテ スミダシニツツ
『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.131
【初出】
『朱扇』 1951.3 寒き灯 (5)
00333
あさはかに振舞ふゆゑか獨り身と思はれ易きことも寂しも
アサハカニ フルマフユヱカ ヒトリミト オモハレヤスキ コトモサビシモ
『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.131
【初出】
『朱扇』 1951.3 寒き灯 (6)
00334
若きわれには待つ幸福もあるならむ涙もろくのみなります母よ
ワカキワレニハ マツシアハセモ アルナラム ナミダモロクノミ ナリマスハハヨ
『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.131
【初出】
『朱扇』 1951.3 寒き灯 (10)
00335
隣りの主婦に貸ししそこばくの金額を氣にかけています母も貧しく
トナリノシュフニ カシシソコバクノ キンガクヲ キニカケテイマス ハハモマズシク
『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.132
【初出】
『朱扇』 1952.3 狭山紀行 (13)
00336
安らひもなく老いゆく母ぞふと來世を信ずる如き言葉を洩らす
ヤスラヒモナク オイユクハハゾ フトライセヲ シンズルゴトキ コトバヲモラス
『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.132
00337
強ひられし謝罪の手紙書くを見て嫁がせしことを母はまた歎く
シヒラレシ シャザイノテガミ カクヲミテ トツガセシコトヲ ハハハマタナゲク
『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.132
00338
われの重荷となるを怖るる母と知る藥草も摘みためて居給ふ
ワレノオモニト ナルヲオソルル ハハトシル ヤクソウモツミ タメテイタマフ
『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.133
【初出】
『朱扇』 1951.4 夢 (8)
00339
誕生石をちりばめし指環も今はなく獨りの母も老い給ひたり
タンジョウセキヲ チリバメシユビワモ イマハナク ヒトリノハハモ オイタマヒタリ
『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.133
【初出】
『朱扇』 1950.11 風媒花 (7)
00340
霧深きロンドンの街をゆける夢さめて寂しも身の冷えてをり
キリフカキ ロンドンノマチヲ ユケルユメ サメテサビシモ ミノヒエテヲリ
『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.133
【初出】
『朱扇』 1951.3 寒き灯 (9)