寂しき言葉


00341
主張せずに理解し合ふ日はいつ來らむ茶を替へに立つ君のそばより
シュチョウセズニ リカイシアフヒハ イツクラム チャヲカヘニタツ キミノソバヨリ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.134
【初出】 『形成』 1953.11 雑記 (1)


00342
君の心を見抜かむ底意持つことも寂しくなりぬ夜更くるままに
キミノココロヲ ミヌカムソコイ モツコトモ サビシクナリヌ ヨフクルママニ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.134
【初出】 『形成』 1953.10 職掌 (8)


00343
現在こそ總べてと言ひ捨てし君の言葉聞きしよりながく心冷えゐる
ゲンザイコソ スベテトイヒステシ キミノコトバ キキシヨリナガク ココロヒエヰル

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.135
【初出】 『形成』 1953.7 寂しき言葉 (1)


00344
もの書きて更かす幾夜の續きつつ明るく描く未來もあらず
モノカキテ フカスイクヨノ ツヅキツツ アカルクエガク ミライモアラズ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.135
【初出】 『形成』 1953.7 寂しき言葉 (4)


00345
夜半覺めてそれよりながく雨を聽く何の夢見て泣きゐしならむ
ヨワサメテ ソレヨリナガク アメヲキク ナンノユメミテ ナキヰシナラム

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.135
【初出】 『形成』 1953.7 寂しき言葉 (3)


00346
アマリリスの花の香にふと蘇へる印象薄れゐしかの日の言葉
アマリリスノ ハナノカニフト ヨミガヘル インショウウスレヰシ カノヒノコトバ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.136
【初出】 『形成』 1953.7 寂しき言葉 (7)


00347
纒まりなくなれる心よ人を恃まず生きむ希ひにも疲れ來りて
マトマリナク ナレルココロヨ ヒトヲタノマズ イキムネガヒニモ ツカレキタリテ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.136
【初出】 『形成』 1953.7 寂しき言葉 (6)


00348
依賴心をあまり持たぬ性も女として不幸と思ふ年經るままに
イライシンヲ アマリモタヌサガモ オンナトシテ フコウトオモフ トシヘルママニ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.136
【初出】 『形成』 1953.10 職掌 (11)


00349
轉職の時機かとも思ふ頰杖つきて食卓に一人殘り居りつつ
テンショクノ ジキカトモオモフ ホオヅエツキテ ショクタクニヒトリ ノコリオリツツ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.137
【初出】 『形成』 1953.10 職掌 (10)


00350
諦めとも満足ともつかぬ靜けさに幾日か速く過ぐることあり
アキラメトモ マンゾクトモ ツカヌシズケサニ イクニチカハヤク スグルコトアリ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.137
【初出】 『形成』 1953.11 雜記 (2)


00351
ヘッセ讀みつつ何時か眠りにおちてゆく明日を信ずる如き姿態に
ヘッセヨミツツ イツカネムリニ オチテユク アスヲシンズル ゴトキシタイニ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.137
【初出】 『形成』 1953.10 職掌 (9)