目次
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全短歌(歌集等)
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まぼろしの椅子
夜の鳥
支へなき
他人の意識に
死はすべてを
憎まれつつ
ゆとり得なば
打開策の
義務的に
百日紅の
苦しみて
遠き世界の
わがために
新聞配達の
かの草山に
山の彼方に
風化して
子のなきを
苦しみて
00400
支へなきわが生き方よ夜の空を鳴き交はしゆく候鳥の聲
ササヘナキ ワガイキカタヨ ヨノソラヲ ナキカハシユク コウチョウノコエ
『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.158
【初出】
『朱扇』 1952.10 夜の鳥 (1)
00401
他人の意識に拘らず生きむと思ふ夜々同じ樹に來て鳴く鳥のあり
タニンノイシキニ カカワラズイキムト オモフヨヨ オナジキニキテ ナクトリノアリ
『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.158
【初出】
『朱扇』 1952.10 夜の鳥 (2)
00402
死はすべてを解決するといふ語句も思ふ時あり不和は苦しく
シハスベテヲ カイケツスルト イフゴクモ オモフトキアリ フワハクルシク
『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.159
【初出】
『朱扇』 1951.2 春遠し (1)
00403
憎まれつつ盡くす誠も限界にありと思ふ今朝は音たてて掃く
ニクマレツツ ツクスマコトモ ゲンカイニ アリトオモフケサハ オトタテテハク
『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.159
【初出】
『朱扇』 1951.2 春遠し (2)
00404
ゆとり得なば鍵しめて一人こもるべき部屋を持たむと思ふ何時より
ユトリエナバ カギシメテヒトリ コモルベキ ヘヤヲモタムト オモフイツヨリ
『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.159
【初出】
『朱扇』 1951.10 深山路 (6)
00405
打開策のなきままに日は過ぎてゆく市營住宅もつひに當らず
ダカイサクノ ナキママニヒハ スギテユク シエイジュウタクモ ツヒニアタラズ
『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.160
【初出】
『朱扇』 1950.7 身邊雑記 (5)
00406
義務的に生きゐると思ふ日がありて洗濯物などためて懶けをり
ギムテキニ イキヰルトオモフ ヒガアリテ センタクモノナド タメテナマケヲリ
『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.160
【初出】
『朱扇』 1952.7 雨季 (6)
00407
百日紅の花も吹かれて散りをらむ暗き夜空に風のとよもす
サルスベリノ ハナモフカレテ チリヲラム クラキヨゾラニ カゼノトヨモス
『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.160
【初出】
『朱扇』 1952.9 百日紅咲く (15)
00408
苦しみてわが保ちゆく妻の座も意味なきごとく思ふひさしく
クルシミテ ワガタモチユク ツマノザモ イミナキゴトク オモフヒサシク
『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.161
【初出】
『朱扇』 1952.10 夜の鳥 (3)
00409
遠き世界の音響のごと間をおきていづべの空にあがる花火ぞ
トオキセカイノ オンキョウノゴト マヲオキテ イヅベノソラニ アガルハナビゾ
『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.161
【初出】
『朱扇』 1952.10 夜の鳥 (4)
00410
わがために強ひて歸らむとすることもなき夫か灯を消して眠らむ
ワガタメニ シヒテカエラムト スルコトモ ナキツマカヒヲ ケシテネムラム
『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.161
【初出】
『朱扇』 1953.3/4 冬の日 (7)
00411
新聞配達の少年に聲をかけおきてひとときをまたわが眠るなり
シンブンハイタツノ ショウネンニコエヲ カケオキテ ヒトトキヲマタ ワガネムルナリ
『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.162
【初出】
『朱扇』 1952.8 合歓の花 (7)
00412
かの草山に殘し來し吾兒が墓を思へば漂泊の身の如くはかなし
カノクサヤマニ ノコシコシアコガ ハカヲオモヘバ サスラヒノミノ ゴトクハカナシ
『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.162
【初出】
『朱扇』 1952.10 暗き思ひ出 (2)
00413
山の彼方に雲ゆく見れば訪ひがたきわがみどり兒の墓邊思ほゆ
ヤマノカナタニ クモユクミレバ トヒガタキ ワガミドリコ゛ノ ハカベオモホユ
『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.162
【初出】
『朱扇』 1952.10 暗き思ひ出 (4)
00414
風化して傾きゐずや年を經しかの草かげの吾兒が墓標よ
フウカシテ カタムキヰズヤ トシヲヘシ カノクサカゲノ アコガボヒョウヨ
『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.163
【初出】
『朱扇』 1952.10 暗き思ひ出 (5)
00415
子のなきを蔑まれ時に羨まれ靜かに日々の過ぐるものかも
コノナキヲ サゲスマレトキニ ウラヤマレ シズカニヒビノ スグルモノカモ
『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.163
【初出】
『朱扇』 1952.10 暗き思ひ出 (6)
00416
苦しみてゐるに家庭と職業を兩立しゐる例に今日も引かれつ
クルシミテ ヰルニカテイト ショクギョウヲ リョウリツシヰルレイニ キョウモヒカレツ
『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.162
【初出】 『朱扇』 1952.10 暗き思ひ出 (3)