秩父路


00430
合歓の花木末に高くそよぎつつ秘かなるわが思慕をいざなふ
ネムノハナ コヌレニタカク ソヨギツツ ヒソカナルワガ シボヲイザナフ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.169
【初出】 『朱扇』 1951.8 秩父路 (1)


00431
山霧を浴びてひとり佇つ高原にやりどなく虚無の思ひ湧きくる
ヤマギリヲ アビテヒトリタツ コウゲンニ ヤリドナクキョムノ オモヒワキクル

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.169
【初出】 『朱扇』 1951.8 秩父路 (2)


00432
微かに松の花粉こぼるる夕まぐれまた逢はむ日の思ほゆるなり
カスカニマツノ カフンコボルル ユウマグレ マタアハムヒノ オモホユルナリ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.170
【初出】 『朱扇』 1951.8 秩父路 (3)


00433
防風林にひねもすけぶる霧の雨思ひ惑ひの斷ちがたきかも
ボウフウリンニ ヒネモスケブル キリノアメ オモヒマドヒノ タチガタキカモ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.170
【初出】 『朱扇』 1951.8 秩父路 (4)


00434
女の死が解決となる小説をよみ終へぬ旅の夜の更けゆきて
オンナノシガ カイケツトナル ショウセツヲ ヨミオヘヌタビノ ヨノフケユキテ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.170
【初出】 『朱扇』 1951.8 秩父路 (5)


00435
足惡き友が必死に彫りてゆく胸像に午后の陽ざし及べり
アシワルキ トモガヒッシニ ホリテユク キョウゾウニゴゴノ ヒザシオヨベリ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.171
【初出】 『朱扇』 1951.7 梅雨の晴間 (1)


00436
秘めもてる思ひは告げず別れ來て霧の中に聽く遠き汽笛を
ヒメモテル オモヒハツゲズ ワカレキテ キリノナカニキク トオキキテキヲ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.171
【初出】 『朱扇』 1951.8 秩父路 (8)