麥若葉


00464
夜の間も人生は流れるものをとて讀書に更かす夫にわれも縫ふ
ヨルノマモ ジンセイハナガレル モノヲトテ ドクショニフカス ツマニワレモヌフ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.183
【初出】 『朱扇』 1950.6 世相 (5)


00465
バス降りて十字路をよぎり來る君よ夕陽の中のわれに手あげて
バスオリテ ジュウジロヲヨギリ クルキミヨ ユウヒノナカノ ワレニテアゲテ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.183
【初出】 『朱扇』 1951.3 寒き灯 (1)


00466
對岸の家にも明るき灯はともる何時までならむかかる平和も
タイガンノ イエニモアカルキ ヒハトモル イツマデナラム カカルヘイワモ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.184
【初出】 『朱扇』 1951.3 寒き灯 (2)


00467
本あまた枕べに積みて臥す君が注射せし痕の痛みを告ぐる
ホンアマタ マクラベニツミテ フスキミガ チュウシャセシアトノ イタミヲツグル

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.184
【初出】 『朱扇』 1951.1 身邊抄 (2)


00468
卵一つ孔あけて吸ふしぐさにもしみじみ長き君の病ひよ
タマゴヒトツ アナアケテスフ シグサニモ シミジミナガキ キミノヤマヒヨ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.184
【初出】 『朱扇』 1951.1 身邊抄 (1)


00469
無名作家のまま終るともながく生きよと希ふを君も知り給ふべし
ムメイサッカノ ママオワルトモ ナガクイキヨト ネガフヲキミモ シリタマフベシ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.185
【初出】 『朱扇』 1951.6 麥若葉 (4)


00470
待つ手紙今日こそは來むかがよひて麥の若葉を吹く風のあり
マツテガミ キョウコソハコム カガヨヒテ ムギノワカバヲ フクカゼノアリ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.185
【初出】 『朱扇』 1951.6 麥若葉 (10)