入間路


00471
出張要務果たしし心安らぎよ午后の人通りにわれも入りゆく
シュッチョウヨウム ハタシシココロ ヤスラギヨ ゴゴノヒトドオリニ ワレモイリユク

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.186
【初出】 『朱扇』 1951.1 川越紀行 (1)


00472
穗すすきに埋もれし古き水車人かげもなくめぐりてゐたり
ホススキニ ウモレシフルキ ミズグルマ ヒトカゲモナク メグリテヰタリ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.186
【初出】 『朱扇』 1951.1 川越紀行 (3)


00473
武藏野の名殘りと思ふ草深く入間路かけて馬車かよふなり
ムサシノノ ナゴリトオモフ クサフカク イルマヂカケテ バシャカヨフナリ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.187
【初出】 『朱扇』 1951.1 川越紀行 (4)


00474
病身にて娶らぬ君が集め來し埴輪らあたたかき眼をしゐるかも
ビョウシンニテ メトラヌキミガ アツメコシ ハニワラアタタカキ メヲシヰルカモ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.187
【初出】 『形成』 1954.1 周辺 (11)


00475
病室のルオーの額もよごれゐて友は氣弱くまた來よと言ふ
ビョウシツノ ルオーノガクモ ヨゴレヰテ トモハキヨワク マタコヨトイフ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.187
【初出】 『朱扇』 1950.8 病室 (6)


00476
不意に顯ちし幻影に惑ふ街角よ雨は限りなく鋪道を濡らす
フイニタチシ ゲンエイニマドフ マチカドヨ アメハカギリナク ホドウヲヌラス

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.188
【初出】 『朱扇』 1952.7 雨季 (4)


00477
日照り雨の縞を縫ひつつ舞ふ落ち葉林の道を濡れて急ぎぬ
ヒデリアメノ シマヲヌイツツ マフオチバ ハヤシノミチヲ ヌレテイソギヌ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.188
【初出】 『朱扇』 1951.11 日照り雨 (9)


00478
眉あげて何にきほふとするわれぞ寄り來れば犬もいとしかりけり
マユアゲテ ナンニキホフト スルワレゾ ヨリクレバイヌモ イトシカリケリ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.188
【初出】 『朱扇』 1952.3 狭山紀行 (12)


00479
なにげなく驛の前より別れ來て暗き過去もつ友と思へり
ナニゲナク エキノマエヨリ ワカレキテ クラキカコモツ トモトオモヘリ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.189
【初出】 『朱扇』 1952.4 みぞれの街 (2)


00480
皮肉さへ輕く受け流して別れ來つ俗臭もいつか身につきゆかむ
ヒニクサヘ カルクウケナガシテ ワカレキツ ゾクシュウモイツカ ミニツキユカム

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.189
【初出】 『形成』 1953.11 雑記 (5)


00481
道ばたにくぐまりて亞炭碎きをり日暮れて何を賣らむ老婆ぞ
ミチバタニ クグマリテアタン クダキヲリ ヒグレテナニヲ ウラムロウバゾ

『まぼろしの椅子』(新典書房 1956) p.189
【初出】 『朱扇』 1953.3/4 冬の日 (2)