なづさふ日々


00495
いつのまに東京を去りし友ならむ風の中に麦踏む日々と告げ来ぬ
イツノマニ トウキョウヲサリシ トモナラム カゼノナカニムギフム ヒビトツゲキヌ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.13
【初出】 『形成』 1957.6 風の中 (3)


00496
一角より崩しゆくほかなき仕事画家に会ふべく足袋を履き替ふ
イッカクヨリ クズシユクホカ ナキシゴト ガカニアフベク タビヲハキカフ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.13
【初出】 『形成』 1957.5 風塵 (1)


00497
合はせねば合はぬ歩調の寂しきに声はげましてもの言はむとす
アハセネバ アハヌホチョウノ サビシキニ コエハゲマシテ モノイハムトス

『不文の掟』(四季書房 1960) p.14
【初出】 『形成』 1957.5 風塵 (4)


00498
ガード越えて速度ましたる夜の電車翻意うながす声なほ追ひ来
ガードコエテ ソクドマシタル ヨノデンシャ ホンイウナガス コエナホオヒク

『不文の掟』(四季書房 1960) p.14
【初出】 『形成』 1957.5 風塵 (5)


00499
転身を信じたる日も遠くしてまとへるものの重くなづさふ
テンシンヲ シンジタルヒモ トオクシテ マトヘルモノノ オモクナヅサフ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.14
【初出】 『形成』 1957.4 浅春 (6)


00500
夜光虫を沈めしごとき記憶にて昏れて水嵩増し来る運河
ヤコウチュウヲ シズメシゴトキ キオクニテ クレテミズカサ マシクルウンガ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.15


00501
夜をこめて松のしづれの音ばかり身を脅やかす足音もなし
ヨヲコメテ マツノシヅレノ オトバカリ ミヲオビヤカス アシオトモナシ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.15
【初出】 『形成』 1956.6 季春 (3)


00502
めさめゐて過ぎゆく夜半の地震を知るここよりつひに遁れ得ざらむ
メサメヰテ スギユクヨワノ ナヰヲシル ココヨリツヒニ ノガレエザラム

『不文の掟』(四季書房 1960) p.15
【初出】 『形成』 1957.8 古時計 (3)