春寒


00503
姑とわれと夫とそれぞれ離り住みとりとめもなし春近くして
ハハトワレト ツマトソレゾレ サカリスミ トリトメモナシ ハルチカクシテ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.16
【初出】 『形成』 1956.3 冬草 (6)


00504
幾日目かに探し当てて友が書きくれし夫の住むとふアパートの地図
イクカメカニ サガシアテテトモガ カキクレシ ツマノスムトフ アパートノチズ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.16
【初出】 『形成』 1956.5 落花 (6)


00505
人生を抛げるなと言はれ愕きて眼帯したる顔を振り向く
ジンセイヲ ナゲルナトイハレ オドロキテ ガンタイシタル カオヲフリムク

『不文の掟』(四季書房 1960) p.17
【初出】 『形成』 1957.12 危惧 (2)


00506
好意もつゆゑの批判と知ることもはかなし起ちて帰りゆくべし
コウイモツ ユヱノヒハント シルコトモ ハカナシタチテ カエリユクベシ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.17
【初出】 『形成』 1956.5 落花 (5)


00507
思ひ見る完結の仕方何れ寂し蘇へる愛とも信じ得ずなりて
オモヒミル カンケツノシカタ イズレサビシ ヨミガヘルアイトモ シンジエズナリテ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.17
【初出】 『形成』 1956.3 冬草 (9)


00508
仕事も歌もつひに虚しと思ふ夜に堪へつつ沸かすコーヒー匂ふ
シゴトモウタモ ツヒニムナシト オモフヨニ タヘツツワカス コーヒーニオフ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.18
【初出】 『形成』 1956.5 落花 (8)


00509
終バスの通りて久しどの店も仕舞ひて星夜の道となりゐむ
シュウバスノ トオリテヒサシ ドノミセモ シマヒテセイヤノ ミチトナリヰム

『不文の掟』(四季書房 1960) p.18
【初出】 『短歌研究』 1956.7 背後のこゑ (20)


00510
ひとり住むわが窓の遅くまで点ることなど噂してさみしき主婦ら
ヒトリスム ワガマドノオソク マデトモル コトナドウワサシテ サミシキシュフラ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.18
【初出】 『形成』 1956.10 ものの音 (5)