火山灰地


00511
窓ガラスの曇り拭く手もまみれゐて夜汽車に碓氷越えゆかむとす
マドガラスノ クモリフクテモ マミレヰテ ヨギシャニウスヒ コエユカムトス

『不文の掟』(四季書房 1960) p.19
【初出】 『短歌研究』 1956.7 背後のこゑ (6)


00512
夢見しは無風の曠野ぞ火山礫を吹き飛ばし来る風にたぢろぐ
ユメミシハ ムフウノコウヤゾ カザンレキヲ フキトバシクル カゼニタヂログ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.19
【初出】 『形成』 1956.2 火山灰地 (4)


00513
風つのる火山灰地のただ中にまた人を降ろしバスは去りゆく
カゼツノル カザンバイチノ タダナカニ マタヒトヲオロシ バスハサリユク

『不文の掟』(四季書房 1960) p.20
【初出】 『形成』 1956.2 火山灰地 (5)


00514
永劫の荒蕪と思ふ野を過ぎて穂すすきそよぐ一地帯あり
エイゴウノ コウブトオモフ ノヲスギテ ホススキソヨグ イチチタイアリ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.20
【初出】 『形成』 1956.2 火山灰地 (9)


00515
這ひ松の青むのみなる火口原またひとしきり砂塵はしまく
ハヒマツノ アオムノミナル カコウゲン マタヒトシキリ サジンハシマク

『不文の掟』(四季書房 1960) p.20
【初出】 『形成』 1956.2 火山灰地 (3)


00516
荻叢に野川あふるるひとところ何ぞ踏み越えがたき思ひは
ヲギムラニ ノカワアフルル ヒトトコロ ナンゾフミコエ ガタキオモヒハ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.21
【初出】 『形成』 1956.2 火山灰地 (10)


00517
何に執して苦しめる身ぞ岩漿はたたなはり劫初の地形をとどむ
ナンニシュウシテ クルシメルミゾ ガンショウハ タタナハリゴウショノ チケイヲトドム

『不文の掟』(四季書房 1960) p.21
【初出】 『形成』 1956.2 火山灰地 (6)


00518
昏れてゆく岩場にひとりバス待てば虜囚の思ひ身をせばめ来る
クレテユク イハバニヒトリ バスマテバ リョシュウノオモヒ ミヲセバメクル

『不文の掟』(四季書房 1960) p.21
【初出】 『形成』 1956.2 火山灰地 (7)


00519
まざまざと硫黄臭へば目を閉ぢて火口丘をくだるバスにゆらるる
マザマザト イオウニオヘバ メヲトヂテ カコウキュウヲクダル バスニユラルル

『不文の掟』(四季書房 1960) p.22
【初出】 『形成』 1956.2 火山灰地 (8)


00520
水光り流るる沢の夕じめり今は帰らむ河口の街へ
ミズヒカリ ナガルルサワノ ユウジメリ イマハカエラム カコウノマチヘ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.22
【初出】 『林鐘』 1957.5/6 季春 (6)


00521
山原の不毛を見尽くし来て幾日遠く光りゐたる湖を恋ふ
ヤマハラノ フモウヲミツクシ キテイクヒ トオクヒカリヰタル ミズウミヲコフ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.22
【初出】 『形成』 1956.2 火山灰地 (12)