木洩れ陽


00522
せかさるるはわれにあらずや時間来て池のボートを呼び戻す声
セカサルルハ ワレニアラズヤ ジカンキテ イケノボートヲ ヨビモドスコエ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.23
【初出】 『短歌研究』 1956.7 背後のこゑ (2)


00523
さみどりの息たつごとき麦生来て憎しみに遠し今のこころも
サミドリノ イキタツゴトキ ムギフキテ ニクシミニトオシ イマノココロモ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.23
【初出】 『形成』 1956.6 季春 (5)


00524
葉洩れ陽を乱しつつ飛ぶ蝶見ゐて忽ちわれは眩みてしまふ
ハモレビヲ ミダシツツトブ チョウミヰテ タチマチワレハ クラミテシマフ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.24
【初出】 『形成』 1956.6 季春 (4)


00525
声嗄れてけうとき午後の窓の外何か倒れてはや音もなし
コエカレテ ケウトキゴゴノ マドノソト ナニカタオレテ ハヤオトモナシ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.24
【初出】 『形成』 1956.6 季春 (1)


00526
みづからはつひに光らぬ天体にたぐへて身を歎くことも久しも
ミヅカラハ ツヒニヒカラヌ テンタイニ タグヘテミヲナゲク コトモヒサシモ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.24
【初出】 『短歌研究』 1956.7 背後のこゑ (4)


00527
静かなる影置く木立遠ければ虚しきものをまた恋はむとす
シズカナル カゲオクコダチ トオケレバ ムナシキモノヲ マタコハムトス

『不文の掟』(四季書房 1960) p.25
【初出】 『形成』 1956.4 遠景 (13)


00528
G線を張り替へて弾くヴァイオリン誰が名器より冽き音たてよ
ゲーセンヲ ハリカヘテヒク ヴァイオリン タガメイキヨリ キヨキネタテヨ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.25
【初出】 『形成』 1956.5 落花 (9)


00529
明け方は霧深からむといふ予報聴きてより夜の思ひさまよふ
アケガタハ キリフカカラムト イフヨホウ キキテヨリヨノ オモヒサマヨフ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.25
【初出】 『形成』 1956.10 ものの音 (1)