カナダまで


00530
憎まれてゐると知り得て安らぐやヴァイオリンの胴を磨きてゐたり
ニクマレテ ヰルトシリエテ ヤスラグヤ ヴァイオリンノドウヲ ミガキテヰタリ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.26
【初出】 『短歌研究』 1956.7 背後のこゑ (5)


00531
大方は笑ひてすますわが笑顔ひといろと思ひまたそのまま笑ふ
オオカタハ ワラヒテスマス ワガエガオ ヒトイロトオモヒ マタソノママワラフ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.26
【初出】 『短歌』 1956.11 カナダまで (3)


00532
女ゆゑスムースにゆくとふかげ口もされつつきりのなき仕事に追はる
オンナユヱ スムースニユクトフ カゲグチモ サレツツキリノナキ シゴトニオハル

『不文の掟』(四季書房 1960) p.27
【初出】 『形成』 1956.1 湖心 (3)


00533
ガラス透かしてのみ空を見る日々過ぎて海へ行かむといふ便り読む
ガラススカシテ ノミソラヲミル ヒビスギテ ウミヘユカムト イフタヨリヨム

『不文の掟』(四季書房 1960) p.27
【初出】 『短歌研究』 1956.7 背後のこゑ (14)


00534
禍ひを吐かむとせしやわが夢につかの間見えて消えたる木馬
ワザワヒヲ ハカムトセシヤ ワガユメニ ツカノマミエテ キエタルモクバ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.27
【初出】 『短歌』 1956.11 カナダまで (8)


00535
たちまちに君のヨットは遠ざかるカナダまで漕ぎゆくにかあらむ
タチマチニ キミノヨットハ トオザカル カナダマデコギ ユクニカアラム

『不文の掟』(四季書房 1960) p.28
【初出】 『短歌』 1956.11 カナダまで (9)


00536
沖に出でていつぱいに風をはらむ帆よ遠くより見ればただに静けし
オキニイデテ イツパイニカゼヲ ハラムホヨ トオクヨリミレバ タダニシズケシ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.28
【初出】 『形成』 1956.12 風前 (3)


00537
道ばたに諍へる異人のそば過ぎて噴水光る公園に出づ
ミチバタニ イサカヘルイジンノ ソバスギテ フンスイヒカル コウエンニイヅ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.28
【初出】 『形成』 1956.4 遠景 (2)


00538
静かなる旅の終りよ外人墓地をかたへに見つつ坂くだりゆく
シズカナル タビノオワリヨ ガイジンボチヲ カタヘニミツツ サカクダリユク

『不文の掟』(四季書房 1960) p.29
【初出】 『形成』 1956.4 遠景 (6)


00539
つきつめて思へることなべて遠景となりゆくごとし朝霧流る
ツキツメテ オモヘルコトナベテ エンケイト ナリユクゴトシ アサギリナガル

『不文の掟』(四季書房 1960) p.29
【初出】 『形成』 1956.4 遠景 (4)