二色の紅


00540
二いろのルージュ日により使ひ分け残る若さををしみつつ生く
フタイロノ ルージュヒニヨリ ツカヒワケ ノコルワカサヲ ヲシミツツイク

『不文の掟』(四季書房 1960) p.30
【初出】 『短歌研究』 1956.7 背後のこゑ (1)


00541
事務室と部屋とをゆききするのみの日々に恋ふ海に続ける牧場
ジムシツト ヘヤトヲユキキ スルノミノ ヒビニコフウミニ ツヅケルマキバ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.30
【初出】 『短歌研究』 1956.7 背後のこゑ (19)


00542
噂撒きてゐることむしろたのしげに人はするすると林檎をむけり
ウワサマキテ ヰルコトムシロ タノシゲニ ヒトハスルスルト リンゴヲムケリ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.31
【初出】 『形成』 1956.7 雨月 (2)


00543
「叩いても鳴らぬキイ持つ人」と書き日記閉づればやや安らぎぬ
タタイテモ ナラヌキイモツ ヒトトカキ ニッキトヅレバ ヤヤヤスラギヌ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.31
【初出】 『短歌研究』 1956.7 背後のこゑ (18)


00544
校正室のわれに幾度も来る電話かかる怱忙をいつよりか愛す
コウセイシツノ ワレニイクドモ クルデンワ カカルソウボウヲ イツヨリカアイス

『不文の掟』(四季書房 1960) p.31
【初出】 『形成』 1956.5 落花 (1)


00545
小さき籠に移されしつがひの頬白もいつか鎮まり夕ぐれて来ぬ
チイサキカゴニ ウツサレシツガヒノ ホオジロモ イツカシズマリ ユウグレテキヌ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.32
【初出】 『形成』 1956.6 季春 (2)


00546
約束されし未来など誰も持たず鰻食べむと連れだちて出づ
ヤクソクサレシ ミライナド タレモモタズ ウナギタベムト ツレダチテイヅ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.32
【初出】 『形成』 1956.8 雨後 (3)


00547
尾けられてゐるごとくまたふり返り自転車の灯に照らし出されつ
ツケラレテ ヰルゴトクマタ フリカエリ ジテンシャノヒニ テラシダサレツ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.32
【初出】 『短歌研究』 1956.7 背後のこゑ (11)


00548
ぬきんでて如何に照るやと恋ほしけれかの塔を月下に見たることなし
ヌキンデテ イカニテルヤト コホシケレ カノトウヲゲッカニ ミタルコトナシ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.33
【初出】 『短歌研究』 1956.7 背後のこゑ (16)


00549
夢のなかといへども髪をふりみだし人を追ひゐきながく忘れず
ユメノナカト イヘドモカミヲ フリミダシ ヒトヲオヒヰキ ナガクワスレズ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.33
【初出】 『短歌研究』 1956.7 背後のこゑ (15)


00550
花殻の吹き溜りゐて沼尻は水たゆたへりながき夕凪ぎ
ハナガラノ フキダマリヰテ ヌマジリハ ミズタユタヘリ ナガキユウナギ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.33