背後のこゑ


00551
昏れぐれの蜩のこゑさまざまの角度に反響しつつ静けし
クレグレノ ヒグラシノコヱ サマザマノ カクドニハンキョウ シツツシズケシ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.34
【初出】 『形成』 1956.10 ものの音 (7)


00552
日傘もつ手も左手も汗ばみて連れ歩く子の無きこと淡し
ヒガサモツ テモヒダリテモ アセバミテ ツレアルクコノ ナキコトアハシ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.34
【初出】 『形成』 1956.1 湖心 (3)


00553
噴水の光れる木蔭白きベンチいづくにあらむとも知らず恋ふ
フンスイノ ヒカレルコカゲ シロキベンチ イヅクニアラム トモシラズコフ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.35
【初出】 『形成』 1956.10 ものの音 (3)


00554
白い花はみんな匂ふさと背後のこゑ手折らむとして立ち竦みたり
シロイハナハ ミンナニオフサト ハイゴノコヱ タヲラムトシテ タチスクミタリ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.35
【初出】 『短歌研究』 1956.7 背後のこゑ (17)


00555
癒え切らぬ身かと日傘を持ち直す渡されしキャベツ手に重たくて
イエキラヌ ミカトヒガサヲ モチナオス ワタサレシキャベツ テニオモタクテ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.35
【初出】 『短歌』 1956.11 カナダまで (10)


00556
出まかせを言ふ少女よと危ぶむにひらり自転車に乗りて帰りゆく
デマカセヲ イフオトメヨト アヤブムニ ヒラリジテンシャニ ノリテカエリユク

『不文の掟』(四季書房 1960) p.36
【初出】 『形成』 1956.5 落花 (2)


00557
オルゴオルのべつに鳴らし隣室の人ももてあますらむかこの夜を
オルゴオル ノベツニナラシ リンシツノ ヒトモモテアマス ラムカコノヨヲ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.36
【初出】 『短歌』 1956.11 カナダまで (11)


00558
音いろの違ふ風鈴部屋をへだててさながら二つ鳴ることのあり
ネイロノ チガフフウリン ヘヤヲヘダテテ サナガラフタツ ナルコトノアリ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.36
【初出】 『短歌』 1956.11 カナダまで (4)


00559
家具の持つ直線の規矩に安らぎてまどろみゆけり注射のあとを
カグノモツ チョクセンノキクニ ヤスラギテ マドロミユケリ チュウシャノアトヲ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.37
【初出】 『形成』 1956.11 豫後 (4)


00560
鉄線の花一つづつかき消えて醒めし夢如何に卜部は解かむ
テッセンノ ハナヒトツヅツ カキキエテ サメシユメイカニ ウラベハトカム

『不文の掟』(四季書房 1960) p.37
【初出】 『短歌』 1958.7 夢うら (3)


00561
内暗き硝子窓ゆゑ夜もすがら映しゐたらむ遠き灯かげも
ウチクラキ ガラスマドユヱ ヨモスガラ ウツシヰタラム トオキホカゲモ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.37
【初出】 『形成』 1958.6 灯かげ (6)