水のほとり


00562
山鳩の啼きかはしゐて明るきに草合歓の花を濡らす雨見ゆ
ヤマバトノ ナキカハシヰテ アカルキニ クサネムノハナヲ ヌラスアメミユ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.38
【初出】 『形成』 1957.11 月かげ (6)


00563
紫蘇の穂のあえかに白き花と見き散りつくしつつ今朝を匂へり
シソノホノ アエカニシロキ ハナトミキ チリツクシツツ ケサヲニオヘリ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.38
【初出】 『形成』 1958.1 秋郊 (8)


00564
梢高くすずろに花の吹かれゐて百日紅は重さ持たぬや
ウレタカク スズロニハナノ フカレヰテ ヒャクジツコウハ オモサモタヌヤ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.39
【初出】 『形成』 1958.1 秋郊 (13)


00565
はぐれゆく心をつなぎとむるごと受話器の奥に鳴るオルゴオル
ハグレユク ココロヲツナギ トムルゴト ジュワキノオクニ ナルオルゴオル

『不文の掟』(四季書房 1960) p.39
【初出】 『短歌研究』 1958.1 夕占 (9)


00566
風のなき夜にて無聊に葉を垂るる棕櫚の木も闇に置きて眠りつ
カゼノナキ ヨニテムリョウニ ハヲタルル シュロノキモヤミニ オキテネムリツ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.39
【初出】 『短歌』 1958.7 夢うら (2)


00567
遠き空に花火あがれる夜なりしがつらぬきがたきことも知りゆく
トオキソラニ ハナビアガレル ヨナリシガ ツラヌキガタキ コトモシリユク

『不文の掟』(四季書房 1960) p.40
【初出】 『短歌研究』 1958.1 夕占 (7)


00568
ささくれて光りゐし水凪ぎゆけばうす絹のごとき波紋を浮かす
ササクレテ ヒカリヰシミズ ナギユケバ ウスギヌノゴトキ ハモンヲウカス

『不文の掟』(四季書房 1960) p.40
【初出】 『短歌』 1957.8 古代の石鏃 (14)


00569
足り易きこころみづから寂しみて沼のほとりを朝々かよふ
タリヤスキ ココロミヅカラ サビシミテ ヌマノホトリヲ アサアサカヨフ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.40
【初出】 『短歌』 1957.8 古代の石鏃 (13)