目次
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全短歌(歌集等)
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不文の掟
野を蔽ふ影
わが窓に
稲の花の
癒えし身に
かすかに罅の
貝踏みて
より深く
遠ざかる
私有地を
移り来し
風に揉まるる
夜更けて
泥みつつ
風落ちて
00570
わが窓に遠く雌松の大樹あり剥離は日々にひそやかにして
ワガマドニ トオクメマツノ タイジュアリ ハクリハヒビニ ヒソヤカニシテ
『不文の掟』(四季書房 1960) p.41
【初出】
『埼玉新聞』 1957.1 草の穂 (5)
00571
稲の花の音無くそよぐ夜とならむ古墳の影は野を蔽ひゆく
イネノハナノ オトナクソヨグ ヨトナラム コフンノカゲハ ノヲオオヒユク
『不文の掟』(四季書房 1960) p.41
【初出】
『形成』 1957.12 危惧 (3)
00572
癒えし身に醒めゆく思惟の過程とも水位つねなく野川ながらふ
イエシミニ サメユクシイノ カテイトモ スイイツネナク ノガワナガラフ
『不文の掟』(四季書房 1960) p.42
【初出】
『形成』 1958.1 秋郊 (9)
00573
かすかに罅の入れるグラス脅やかすごとき音をたつ湯を注ぐ時
カスカニヒビノ ハイレルグラス オビヤカス ゴトキネヲタツ ユヲソソグトキ
『不文の掟』(四季書房 1960) p.42
【初出】
『形成』 1957.12 危惧 (1)
00574
貝踏みて切りしあなうら癒えがたく玫瑰実りゐむ海を恋ふ
カイフミテ キリシアナウラ イエガタク ハマナスミノリ ヰムウミヲコフ
『不文の掟』(四季書房 1960) p.42
【初出】
『形成』 1957.9 遠き記憶 (1)
00575
より深く惑はむために去りゆくやスーツケースを片寄せて坐す
ヨリフカク マドハムタメニ サリユクヤ スーツケースヲ カタヨセテザス
『不文の掟』(四季書房 1960) p.43
【初出】
『形成』 1957.8 古時計 (6)
00576
遠ざかることのみを希ひ歩み来て眼先眩むごときむなしさ
トオザカル コトノミヲネガヒ アユミキテ マナサキクラム ゴトキムナシサ
『不文の掟』(四季書房 1960) p.43
【初出】
『形成』 1957.1 淡水 (12)
00577
私有地をくぎれる柵にまつはりて日々に茨の咲き揃ひゆく
シユウチヲ クギレルサクニ マツハリテ ヒビニイバラノ サキソロヒユク
『不文の掟』(四季書房 1960) p.43
【初出】
『形成』 1958.7 夜景 (6)
00578
移り来し部屋にかかぐる月光像いくばくか更へてゆかむ生活も
ウツリコシ ヘヤニカカグル ガッコウゾウ イクバクカカヘテ ユカムクラシモ
『不文の掟』(四季書房 1960) p.44
【初出】
『短歌』 1957.8 古代の石鏃 (15)
00579
風に揉まるる楡の葉かかる夜々を経て笑まひさざめく如く見え来よ
カゼニモマルル ニレノハカカル ヨヨヲヘテ ヱマヒサザメク ゴトクミエコヨ
『不文の掟』(四季書房 1960) p.44
【初出】
『形成』 1959.8 雨のあと (7)
00580
夜更けて走らす車逃竄に似つつ冴えゆくフロントグラス
ヨルフケテ ハシラスクルマ トウザンニ ニツツサエユク フロントグラス
『不文の掟』(四季書房 1960) p.44
00581
泥みつつ何時までか思ふ獄を出でて遂に再起し得ざりしワイルド
ナヅミツツ イツマデカオモフ ゴクヲイデテ ツイニサイキシ エザリシワイルド
『不文の掟』(四季書房 1960) p.45
00582
風落ちて夜霧は街を蔽はむにあなうら冷えてながく醒めゐる
カゼオチテ ヨギリハマチヲ オオハムニ アナウラヒエテ ナガクサメヰル
『不文の掟』(四季書房 1960) p.45
【初出】
『形成』 1958.5 春信 (2)