父の忌


00590
父亡きあと苦しめる日も過ぎゆきぬ今年は大学を終へむ妹
チチナキアト クルシメルヒモ スギユキヌ コトシハダイガクヲ オヘムイモウト

『不文の掟』(四季書房 1960) p.50
【初出】 『形成』 1957.3 冬土 (2)


00591
終戦を知らで逝きしを語りつつ慰むか父の忌の夜の母よ
シュウセンヲ シラデユキシヲ カタリツツ ナグサムカチチノ キノヨノハハヨ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.50
【初出】 『形成』 1956.4 遠景 (6)


00592
去年よりは心落ちゐるわれと思ひ父の忌の夜の夕餉に向ふ
コゾヨリハ ココロオチヰル ワレトオモヒ チチノキノヨノ ユウゲニムカフ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.51
【初出】 『形成』 1957.3 冬土 (3)


00593
男手を久しく持たぬわが家か抽斗にドライバーも錆びゐて
オトコデヲ ヒサシクモタヌ ワガイエカ ヒキダシニ ドライバーモサビヰテ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.51
【初出】 『形成』 1958.4 春寒 (6)


00594
田舎に居らば不幸にならずにすみしかとかへらぬことをまた母の言ふ
イナカニオラバ フコウニナラズニ スミシカト カヘラヌコトヲ マタハハノイフ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.51
【初出】 『形成』 1956.7 雨月 (7)


00595
感情を押し殺し来てはや二年夫と住む女性は見たることなし
カンジョウヲ オシコロシキテ ハヤニネン ツマトスムジョセイハ ミタルコトナシ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.52
【初出】 『形成』 1956.3 冬草 (8)


00596
接骨木の芽ぶきはしるしみづからをせばめて生くるほかなき日々に
ニハトコノ メブキハシルシ ミヅカラヲ セバメテイクル ホカナキヒビニ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.52
【初出】 『形成』 1957.4 浅春 (1)


00597
解き毛糸蒸す片方より巻き呉るる母をたのしますることも少なし
トキケイト ムスカタヘヨリ マキクルル ハハヲタノシマスル コトモスクナシ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.52
【初出】 『形成』 1959.4 早春 (1)