吹かるる穂草


00611
安らぎに似つつ不信をはぐくむに栗の花咲く木立明るむ
ヤスラギニ ニツツフシンヲ ハグクムニ クリノハナサク コダチアカルム

『不文の掟』(四季書房 1960) p.58
【初出】 『形成』 1957.8 古時計 (4)


00612
何気なく聞きすごせしが身に沁みぬわが単衣母が縫ひゐるといふ
ナニゲナク キキスゴセシカ ミニシミヌ ワガヒトヘハハガ ヌヒヰルトイフ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.58
【初出】 『形成』 1956.8 雨後 (2)


00613
傷つけぬやうに断るすべはなきかあかりに遠き椅子占めて待つ
キズツケヌ ヤウニコトワル スベハナキカ アカリニトオキ イスシメテマツ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.59
【初出】 『形成』 1957.1 淡水 (11)


00614
意識して互に避くる語彙をもちバスゆるる時気弱く笑ふ
イシキシテ カタミニサクル ゴイヲモチ バスユルルトキ キヨワクワラフ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.59
【初出】 『形成』 1957.5 風塵 (3)


00615
風あれば穂草吹かれてゆるるのみ疑ひを解かむなどと思ふな
カゼアレバ ホクサフカレテ ユルルノミ ウタガヒヲトカム ナドトオモフナ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.59
【初出】 『埼玉新聞』 1957.1 草の穂 (3)


00616
南半球へ遁れゆかむなどと笑ひゐし君を思ふ或ひは本意か知れず
ミナミハンキュウヘ ノガレユカムナドト ワラヒヰシ キミヲオモフアルヒハ ホンイカシレズ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.60
【初出】 『短歌』 1956.11 カナダまで (14)


00617
復員後は山男のやうに暮らしきと何をわからせたくて言ひしぞ
フクインゴハ ヤマオトコノヤウニ クラシキト ナニヲワカラセ タクテイヒシゾ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.60
【初出】 『短歌』 1956.11 カナダまで (2)


00618
またたく星またたかぬ星さみしく立ちどまりたくなりつつ歩む
マタタクホシ マタタカヌホシ サミシク タチドマリタク ナリツツアユム

『不文の掟』(四季書房 1960) p.60
【初出】 『短歌』 1956.11 カナダまで (1)


00619
雨しぶくホームに立ちつくす無縁の人となるかも知れぬ姑を発たしめて
アメシブク ホームニタチツクス ムエンノヒトト ナルカモシレヌ ハハヲタタシメテ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.61
【初出】 『形成』 1956.6 季春 (10)


00620
遠き日に見し浜木綿の群落よ雑然と本を重ねて眠る
トオキヒニ ミシハマユウノ グンラクヨ ザツゼントホンヲ カサネテネムル

『不文の掟』(四季書房 1960) p.61
【初出】 『形成』 1957.8 古時計 (2)


00621
責めたつるみづからの声にめざめたり夢のなかにてわれははげしき
セメタツル ミヅカラノコエニ メザメタリ ユメノナカニテ ワレハハゲシキ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.61
【初出】 『形成』 1957.10 秋近く (5)