畷の草


00641
いつよりか「先生」とわれを呼ぶ姉妹今朝は畷の草を刈りゐる
イツヨリカ センセイトワレヲ ヨブシマイ ケサハナワテノ クサヲカリヰル

『不文の掟』(四季書房 1960) p.69
【初出】 『短歌』 1958.9 逸れ矢 (9)


00642
鰻とる細工して畦にゐる児らの下駄乾きつつ道にちらばる
ウナギトル サイクシテアゼニ ヰルコラノ ゲタカワキツツ ミチニチラバル

『不文の掟』(四季書房 1960) p.69
【初出】 『形成』 1959.11 秋近く (4)


00643
夕顔の苗を植ゑつつ身の背後あざむかれゐるごとき静けさ
ユウガオノ ナエヲウヱツツ ミノハイゴ アザムカレヰル ゴトキシズケサ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.70
【初出】 『短歌』 1958.7 夢うら (5)


00644
少年の野球選手らバス降りて並木の切れ目より曲りゆく
ショウネンノ ヤキュウセンシュラ バスオリテ ナミキノキレメ ヨリマガリユク

『不文の掟』(四季書房 1960) p.70
【初出】 『形成』 1958.9 夏日 (4)


00645
ふやされし労務といへどたのしみて浜木綿の花を鉢に培ふ
フヤサレシ ロウムトイヘド タノシミテ ハマユウノハナヲ ハチニツチカフ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.70
【初出】 『形成』 1958.10 葉月 (2)


00646
印持たぬ人には拇印捺さしめて経理のさまのむごきことあり
インモタヌ ヒトニハボイン オサシメテ ケイリノサマノ ムゴキコトアリ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.71
【初出】 『形成』 1959.4 早春 (3)


00647
昼休みの職場コーラス混声にて歯切れよく断音を歌ふ
ヒルヤスミノ ショクバコーラス コンセイニテ ハギレヨク スタツカートヲウタフ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.71
【初出】 『短歌』 1956.11 カナダまで (13)


00648
日曜も麦刈りに追はれむと言ふ友をかこみてわれら羨しみ合へり
ニチヨウモ ムギカリニオハレムト イフトモヲ カコミテワレラ トモシミアヘリ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.71
【初出】 『形成』 1956.7 雨月 (1)


00649
停年近き君が絵を習ひ始めたりポンカンを描くと聞けばゑましさ
テイネンチカキ キミガエヲナラヒ ハジメタリ ポンカンヲカクト キケバヱマシサ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.72
【初出】 『形成』 1956.7 雨月 (9)


00650
フローラを住まはしむればたのしかり日々フレームの花覗きつつ
フローラヲ スマハシムレバ タノシカリ ヒビフレームノ ハナノゾキツツ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.72
【初出】 『短歌』 1956.11 カナダまで (12)


00651
福相を持つと言はれて笑ひたり本当に幸福なのかも知れぬ
フクソウヲ モツトイハレテ ワラヒタリ ホントウニコウフク ナノカモシレヌ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.72
【初出】 『形成』 1956.6 季春 (12)