ながき花季


00652
ぬけがらを置きてとびたつすべなきに洗ひし髪のたちまち乾く
ヌケガラヲ オキテトビタツ スベナキニ アラヒシカミノ タチマチカワク

『不文の掟』(四季書房 1960) p.73
【初出】 『短歌』 1957.8 古代の石鏃 (11)


00653
草の穂のそよぐ河原明るくて児らはとりまく教師の画架を
クサノホノ ソヨグカハハラ アカルクテ コラハトリマク キョウシノガカヲ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.73
【初出】 『形成』 1958.11 秋意 (1)


00654
綱張りて光る帯などひろげ干す去らむ日近き部屋乱しつつ
ツナハリテ ヒカルオビナド ヒロゲホス サラムヒチカキ ヘヤミダシツツ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.74
【初出】 『形成』 1957.7 雨後 (1)


00655
うしろ向きの人のみ歩むユトリロの絵と見ゐて不意に心陥る
ウシロムキノ ヒトノミアユム ユトリロノ エトミヰテフイニ ココロオチイル

『不文の掟』(四季書房 1960) p.74
【初出】 『形成』 1957.10 秋近く (4)


00656
つぎつぎに花終へて葵実りゆく疑へばきりもあらぬ寂しさ
ツギツギニ ハナオヘテアオイ ミノリユク ウタガヘバキリモ アラヌサビシサ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.74
【初出】 『形成』 1957.9 遠き記憶 (2)


00657
まざまざと憎みて塗りつぶしゐたりしが醒めては誰の像とも分かず
マザマザト ニクミテヌリツブシ ヰタリシガ サメテハタレノ ゾウトモワカズ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.75
【初出】 『形成』 1959.11 秋近く (3)


00658
醒めてゆく心さながら見守りつつながき葵の花どきも過ぐ
サメテユク ココロサナガラ マモリツツ ナガキアオイノ ハナドキモスグ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.75
【初出】 『短歌』 1957.8 古代の石鏃 (12)