秋郊


00667
秋づける日々雲の層深くして退嬰をこばむみづからのこゑ
アキヅケル ヒビクモノソウ フカクシテ タイエイヲコバム ミヅカラノコヱ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.79
【初出】 『形成』 1957.10 秋近く (1)


00668
待たれゐて急ぐがごとく一方に光る穂絮の空を流らふ
マタレヰテ イソグガゴトク ヒトカタニ ヒカルホワタノ ソラヲナガラフ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.79
【初出】 『形成』 1958.1 秋郊 (2)


00669
太幹に矢じるし白く彫られゐていざなふ暗き林の奥へ
フトミキニ ヤジルシシロク ホラレヰテ イザナフクラキ ハヤシノオクヘ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.80
【初出】 『形成』 1958.1 秋郊 (3)


00670
雨あとの刈り田に漂ふ田舟見つつ旅人のごときわれの歩みぞ
アマアトノ カリタニタダヨフ ソリミツツ タビトノゴトキ ワレノアユミゾ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.80
【初出】 『形成』 1958.1 秋郊 (10)


00671
掘りあてし埴輪値踏みして人らあり墳ぐるみ既に夕靄のなか
ホリアテシ ハニワネブミシテ ヒトラアリ ツカグルミスデニ ユウモヤノナカ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.80
【初出】 『形成』 1958.3 冬の季語 (2)


00672
浜荻のみだるる河口水昏れてひそかに思ひさかのぼらしむ
ハマオギノ ミダルルカコウ ミズクレテ ヒソカニオモヒ サカノボラシム

『不文の掟』(四季書房 1960) p.81
【初出】 『形成』 1958.1 秋郊 (19)


00673
夜の水にひびきて稲架の撓ふ音しづかにわれを取り戻しゆく
ヨノミズニ ヒビキテハサノ シナフオト シヅカニワレヲ トリモドシユク

『不文の掟』(四季書房 1960) p.81
【初出】 『短歌』 1958.3 夜陰のおと (19)


00674
うとくして今日に変らぬ明日あらむ重たき帯と思ひつつ解く
ウトクシテ キョウニカワラヌ アスアラム オモタキオビト オモヒツツトク

『不文の掟』(四季書房 1960) p.81
【初出】 『形成』 1958.1 秋郊 (15)