冬の思惟


00683
あらはなる飢餓を見せつつけものらは歩めり雪の来む夕べにて
アラハナル キガヲミセツツ ケモノラハ アユメリユキノ コムユウベニテ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.85
【初出】 『形成』 1958.3 冬の季語 (1)


00684
録音に集約されて妻帯者より脱落しゆく闘争のさま
ロクオンニ シュウヤクサレテ サイタイシャヨリ ダツラクシユク トウソウノサマ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.85
【初出】 『形成』 1958.10 葉月 (3)


00685
ふるさとの樹氷の山の幻聴を呼びて月さす芝生かがやく
フルサトノ ジュヒョウノヤマノ ゲンチョウヲ ヨビテツキサス シバフカガヤク

『不文の掟』(四季書房 1960) p.86
【初出】 『形成』 1959.3 季冬のころ (6)


00686
酔はぬ時に会はむと言ひて別れ来つたたむ羽織の裏がつめたし
ヨハヌトキニ アハムトイヒテ ワカレキツ タタムハオリノ ウラガツメタシ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.86
【初出】 『形成』 1957.4 浅春 (5)


00687
出口の一つふさぎて本を積める部屋究極の砦のごとき思ひす
デグチノヒトツ フサギテホンヲ ツメルヘヤ ツヒノトリデノ ゴトキオモヒス

『不文の掟』(四季書房 1960) p.86
【初出】 『短歌研究』 1958.1 夕占 (8)


00688
枯れ枝に紙のテープのごとき花金縷梅活けてわが思惟まづし
カレエダニ カミノテープノ ゴトキハナ マンサクイケテ ワガシイマヅシ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.87
【初出】 『形成』 1958.4 春寒 (4)


00689
水甕に水をみたして夜々眠る母の生き方にもわれは及ばぬ
ミズガメニ ミズヲミタシテ ヨヨネムル ハハノイキカタニモ ワレハオヨバヌ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.87
【初出】 『形成』 1958.2 冬木 (6)


00690
夜をこめて抗へばかく波だちて凍らぬ沼と今朝は思ひつ
ヨヲコメテ アラガヘバカク ナミダチテ コオラヌヌマト ケサハオモヒツ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.87
【初出】 『短歌』 1958.3 夜陰のおと (16)


00691
風荒るる斜面に麦の芽吹く見え自転車押して人のぼりゆく
カゼアルル シャメンニムギノ メブクミエ ジテンシャオシテ ヒトノボリユク

『不文の掟』(四季書房 1960) p.88
【初出】 『形成』 1957.4 浅春 (4)


00692
漸くに巣を出でしインコの雛の水換へてより日直の仕事を始む
ヨウヤクニ スヲイデシインコノ ヒナノミズ カヘテヨリニッチョクノ シゴトヲハジム

『不文の掟』(四季書房 1960) p.88
【初出】 『形成』 1956.3 冬草 (11)


00693
嫁げば必ず不幸になると思へるや妹を帰してよりながく寂しむ
トツゲバカナラズ フコウニナルト オモヘルヤ イモウトヲカエシテヨリ ナガクサビシム

『不文の掟』(四季書房 1960) p.88
【初出】 『形成』 1956.4 遠景 (10)